あたりまえにしている「口から食べる」ということ。これは、体に栄養を供給する働きがあるだけではありません。「食べる」ことで五感に刺激を与え、老化予防や衰えかけている機能のリハビリにも役立っているのです。
医学が進歩した現在、「口から食べる」ことができなくなっても、経管栄養などの方法で生きるためのエネルギーを摂ることができます。しかし、これは治療を目的としたもので、その期間は短いにこしたことはありません。
ものを噛んだり飲み込んだりする働きが弱っても、体調の変化にいち早く気づき、初期の段階から適切に対処したいものです。今回は、食べる機能の低下に対応しながら味わいのある食事を続けるための秘訣を、才藤栄一先生(藤田保健衛生大学教授・医学博士)にアドバイスしていただきます。
私たちは食べ物を口にするとき、その色、形、臭いなどを感じ、情報として脳に送ります。脳はその情報を認めると、唾液や胃液の分泌を促し、食べ物を受け入れる準備を始めるのです。
このとき意識がはっきりしていないと、健康な人でもむせることがあります。特に寝たままで過ごす時間が多い人は、食卓へ移動させるなど、負担にならない程度に体を動かして目をはっきりと覚まさせ、機能を働かせる準備をするとよいでしょう。
口の中は、細菌が繁殖しやすい場所です。清潔に保ちましょう。細菌は、虫歯や歯槽膿漏だけでなく、万が一、誤嚥(胃に入るべきものが肺に入ってしまう)した場合、肺炎を引き起こす原因にもなります。食前にうがいなどをすると、口の中が潤い、味覚も感じやすくなって一石二鳥です。
また、チューブなどで栄養補給し、口から食べ物を入れない人でも、口腔ケア(口の掃除)は必要です。唾液に混じった細菌が原因で、肺炎になるケースもあるからです。ねばった唾液は、口腔ケアが足りないしるしです。注意しましょう。
食事は、起きた姿勢(起座位)でとるのが原則です。しかし、誤嚥しやすい場合は、座るよりもリクライニング(図1)させたほうがよく、あごを引くと「ゴックン」と飲み込みやすくなります。特にサラサラした水は誤嚥しやすいので、水を飲むときだけリクライニングにするのも一つの方法です。
体の麻痺が左右違う場合は、麻痺している方向を向かせると、食べ物が良いほうの喉を通り、食べやすくなります。食べやすい体位を工夫してください。

唾液分泌が少ない人、噛むことや飲み込むことが上手くできない人には、「食べやすい大きさに刻む」「軟らかく調理する」「トロミをつける」などの工夫が必要です。一番簡単なのはゼリーです。また、冷たい料理は冷たく、温かいものは温かく、温度をはっきりさせます。味付けもしっかりつけてください。
「噛む」ことで食べ物は、唾液と混じり合い、飲み込みやすい食塊になります(図2)。また「噛む」ことは、脳血流を刺激し、ボケ防止にもつながります。
かといって、無理に硬いものばかりを食べさせ、本人を疲れさせてしまうのは逆効果です。1食30分くらいを目安に、それぞれの食べる力(摂取能力)に合わせた献立を考え、少しずつ常食に近づけていきましょう。
飲み込むときは、口を閉じ、呼吸を止めてうなずくようにして「ゴックン」です(図3)。「ゴックン」が確認できないまま詰め込んでしまうと誤嚥の恐れが出てきます。
「ゴックン」に無理がある場合は、そのままにせず、専門医に相談しましょう。VF検査という飲み込む機能がどれくらいあるかを評価するビデオレントゲン検査もあります。機能回復のためのリハビリ訓練など、状態に応じた適切な指導・治療を受けてください。
食後すぐに横になると、食べたものが胃や食道から逆流しやすくなります。食後2時間くらいはリクライニング程度にし、体を倒さないよう心がけましょう。

