あなたが介護しているお年寄りは、自分でトイレにいけますか?「転んで骨折してしまった」「入院した」などをきっかけに、おむつをつけるようになった人も多いことでしょう。しかし、病状が安定しても、同じように寝たきりの生活を送らせてしまってはいませんか?
「廃用症候群」。これは、使わなくなった機能や能力の衰えを意味することばです。「排泄」に関していえば、排泄をコントロールしている機能や知覚が衰え、垂れ流しになる状態です。こうしたお年寄りに「おしっこ(便)が出そうですか?」と尋ねても、ほとんどの人は「はい」とは答えてくれません。
そして介護者もまた、「尿意も便意もないから…」とあきらめてしまいがちです。これが「廃用症候群」を悪化させ、お年寄りを寝たきりにしてしまう大きな要因になっているのです。
お年寄りを寝たきりにさせないための最も有効な手段は、「座位」(腰かける姿勢)をとらせることです。在宅で過ごしているお年寄りであれば、ほとんどの人が介助さえあれば「座位」は可能です。1日3回の食事やトイレなど、日常の生活の中で起き上がる機会を増やしていきましょう。
今回は、長年リハビリテーションの分野から「生活」全般に目を向け、老人医療に取り組んでおられる竹内孝仁先生(日本医科大学教授)に、「排泄ケア」を通して「寝たきり」のお年寄りを作らないための秘訣をお伺いします。
<図2>
排泄は、「中枢(脳)のコントロール」「腹圧(いきむ力)」「尿・便の重さ」「膀胱・直腸の協調」という4つの要素で行われ、それぞれがとても重要な役割を持っています(図1)。まず脳が、「尿(便)が出そうだ」と感じて、排泄を指令します。そしていきむ力に、尿・便の重さが加わり、膀胱から尿が、直腸から便が排泄されます(図2)。
しかし、寝たきりで長い間おむつをつけていると、脳の働きが悪くなり、尿や便が出そうだと感じなくなって、「溜まれば出る」という反射によってのみ排泄されるようになります。その上、寝たままの姿勢では、腹圧が小さくなるうえに尿や便の重さが加わらず、必要以上にいきまなくてはなりません。更にもともと腹筋が弱く、いきむ力がかからないと、尿も便も1回に出しきれず、漏れるように少量ずつ押し出され、頻尿・頻便の原因にもつながってしまうのです(図3)。 
排泄を無理なく行うには、「座位」(腰かける姿勢)が一番です。長い間寝ていた人を急に起こすと、立ちくらみを起こすこともあるので、様子をみながら繰り返していきましょう。そのうちに座位が保てるようになり、ポータブルトイレが使えたり、車イスでの移動ができるようになります。
まずは「便」です。およそ1週間〜10日、排便のチェックをしましょう。人それぞれ固有のパターンをもっていることがわかるはずです(表1)。頻便の人でも、量の多いときと少ないときがあります。その場合、量の多いときがその人の排便のリズムとみていいでしょう。一般的に排便は、1日1回(高齢者では2〜3日に1回のこともある)と回数が少なく、ほぼ定期的です。その特徴を利用し、排便のリズムをみて、ポータブルトイレへの移動を促しましょう。一度ポータブルトイレでの排便が成功すれば、それが毎日(毎回)の習慣につながっていきます。
排便が成功したら、同じように排尿も試みます。座位での排泄は寝たままとは違い、便や尿を一度に出せます。就寝前に座位でしっかり出しておけば、夜間の排泄がゼロにならないまでも、保水量の多いおむつを使用することで熟睡も得られます。



しかし、在宅での介護で、大人一人を移動させることは大変です。そのためにも、介護サービスやすぐれた用品・用具を有効に活用しましょう。例えば、ホームヘルプサービスを利用するなら、訪問時間を排便のリズムや起床・就寝など移動のタイミングにあわせてもらいます。日中はデイサービスに参加するのもいいでしょう。市区町村によっては、介護力を補える電動ベッドや様々な排泄用品を貸し出してくれるところもあります。
また、お年寄りにとって抵抗のあるおむつも、最近ではパンツタイプなど従来に比べ受け入れやすいものが多く開発されています。自尊心を傷つけないよう、精神的な気遣いを心がけ、個人の症状にあわせた適切なものを使いましょう。
☆エピソード☆
神奈川県川崎市のK男さんは、ホームヘルパーの指導を受けながら、ポータブルトイレでの排便に挑戦しました。最初はされるままに移動していただけのK男さんですが、成功したその日以来、本人がやる気を起こし、今ではトイレで排便・排尿できるまでに回復しました。
