介護の基礎知識 <06>

介護情報誌ハナさんVol.6 2000年11月掲載 特集06

便秘から快便へ すぐできる生活改善

便秘から快便へ

 食生活の変化やストレスなどの影響で、便秘に悩む人が増えています。お年寄りも例外ではありません。平成6年、神奈川県内の施設入所者1,174人を対象に行った調査では、およそ6割の人が排便が困難で、何らかの介助が必要であるという結果が出ています。

 便秘にはいくつかのタイプがありますが、意外にも、便をしたいという気持ちを我慢したり無視したりしたために、便秘になる人が多いのです。直腸内に糞便がある程度以上たまると、直腸内の壁が伸びます。この情報が末梢神経から脊髄を通って大脳に伝えられ、便意を感じることになります。この便意は周期的に現れますが、そのたびに我慢を重ねていると、やがて消えてしまいます。この便意を我慢する癖が知らず知らずのうちに習慣になってしまうと、便が直腸内に相当量たまっても便意を感じなくなり、排便反射も起こらなくなります。その結果、慢性便秘の状態に陥ってしまうのです。

 さらにお年寄りの場合は、老化現象によって腸管運動が低下していたり、生体反射が鈍っていたりします。これは避けられない問題ですが、身体の状態にあった生活環境を作り、排便を習慣づけることが快便をとり戻す第一歩につながります。今回は、高齢者や障害者の排泄問題にとり組んでいる大沼敏夫先生(21世紀高齢者・障害者問題研究所所長・理学博士に、快便に向けての生活習慣について伺いました。

 

「食物繊維+善玉菌(ビフィズス菌)+水分」は快便の強い味方

 便は、口から食べた食物が消化・吸収されたあとの残りカスです。ですから、口から入る食物によって、作られる便も異なってきます。よい便を作るための材料の仕込み(食事の質と量)は、快便を促すための第一条件です。食べる量が少ないと、便の量も減ります。

 食物繊維は人間の消化酵素では消化されないため、そのまま腸まで届き、便の構成成分になります。お年寄りの場合、噛む力や飲み込む力が低下していることが多く、軟らかい食事になりがちですが、繊維質のものも調理方法を工夫するなどしてできるだけ食べましょう。加工食品などを上手にとり入れるのも一つの方法です。

 また、腸には数えきれないほど多くの細菌が棲んでいて、ビフィズス菌に代表される善玉菌と大腸菌に代表される悪玉菌などが共存しています。善玉菌の割合が多いほど、腸の働きは活発になりますが、ときには悪玉菌が優勢になってしまいます。ビフィズス菌は胃酸に弱く、そのまま食べてもほとんど大腸まで到達できません。善玉菌を増やすためには、ビフィズス菌の栄養源であるオリゴ糖を含む食品をとると効果的です。さらに、食物繊維は善玉菌が活動しやすい環境も作ってくれます。

 大腸では、多くの水分が体内に吸収されます。食物繊維も水分を吸収して量を増し、排泄しやすい便を作ります。水分が足りないと、便はパサパサしたものになってしまいます。汗をかいたときなどは、余分に水分をとりましょう。下痢のときは、体内に吸収されるはずの大切な水分まで排泄されてしまいます。脱水症の予防のためにも、湯ざましなどで十分に水分を補いましょう。

 食物繊維やオリゴ糖は消化されずに腸まで届き、Cを整えてくれます。逆に、たんぱく質や脂肪は、とりすぎると悪玉菌が活動しやすい環境を作ってしまいます。肉や魚は大切な栄養源ですが、食べすぎに注意し、野菜を多めにした、バランスのよい食事を心がけましょう(図1)。

腸内環境

図1 腸内環境

※食物繊維を多く含む商品
野菜、果物、穀物、豆類、海藻類など(主に、粗い繊維は便の骨格になり、細かい粒子は便の要素をつなぎ合わせます。)

 

今日からできる5つの生活改善

1 食事は食卓で、朝食はしっかりとる

 起き上がることで腸が刺激され、大腸のなかで便の輸送が始まります(起立大腸反射)。さらに、朝食をとることで、大腸の便は、直腸に向けて一度に大量に運ばれていきます(胃大腸反射)。

排便のときは座る習慣をつけよう2 便意を無視せず、座って排便を

 直腸内に便がたまると、直腸の内圧が上昇し、神経を通して脳に伝えられ、便意を感じることになります。この便意を無視せず、すぐに便座に座るなどの排泄行為を行うことが、便秘を避けるための大切なポイントです。排便を無理なく行う最良の姿勢は、便器やポータブルトイレに腰かけることです(図2)。寝たきりの人でも介助を受けて、排便のときは座る習慣をつけましょう。

3 食物繊維+善玉菌(ビフィズス菌)+水分

 量のある軟らかな便作りには、たっぷりの水分と食物繊維や善玉菌(ビフィズス菌)で腸内環境を整えることが重要です。朝起きたら冷たい水や牛乳を飲むことを習慣にすれば、腸に活動開始の合図が送れ、水分も補えます。ただし、冷たいものは痙攣性(敏感に腸の収縮運動が起きる)の便秘などには刺激が強すぎる場合もあります。

図2 排便姿勢 

4 ストレスの少ない生活を

 腸の運動は、そのときの気分によって大きく左右されます。心配事があって便秘になったり下痢になったりするのはこのためです。お年寄りばかりでなく、介護者自身にもストレスがたまらないよう、介護サービスなどを上手に利用しましょう。適度な運動は、全身の血行をよくし、新陳代謝を促し、ストレスを発散させる効果もあります。

5 下剤や浣腸に頼らない

 下剤や浣腸に頼ってしまうと、なかなか自然の排便には戻れません。下剤などを使う場合は、便を出しきったあと、改めて快便に向けた環境づくりを試みましょう。最近では、温水で腸を刺激して排便を促す(洗腸法)介護用具が開発され、頑固な便秘から自力排便に移行したケースも報告されています。こうした道具をとり入れてみるのもいいでしょう。

 

排便パターンをつかんで生活にリズムを

便の色を観察する 排便のパターンは人それぞれです。昼間でも、1日おきでも、その人にとって気持ちのよい便がスムーズに排泄されていれば便秘ではありません。生活にリズムがあり、排便が習慣になっていればいいのです。しかし、腸のなかに不要物を長い間ため込むようでは、発ガン性物質を増やすことにもなり、身体に悪影響が及びます。

 また、便を観察することは病気の発見に役立ちます。なお、腸に腫瘍などができ、便の通過を妨げていることがあります。外科的治療が必要な場合もあるので、原因がわからないときは、迷わず専門医の診察を受けましょう。

大沼敏夫 理学博士

 

大沼敏夫 理学博士
昭和34年東京理科大学理学部卒業。
昭和48年より神奈川県総合リハビリテーションセンター身体障害者更生施設・特別養護老人ホーム・同センター障害福祉研究室を経て、現在、21世紀高齢者・障害者問題研究所所長。
共著に『よくわかる排便・便秘のケア』(中央法規)。



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