介護の基礎知識 <07>

介護情報誌ハナさんVol.7 2001年03月掲載 特集07

キーワードは「1,300」と「かみかみ・もぐもぐ・ごっくん」

 人間が生きていく上で「水分」と「栄養」は、最低どれくらい必要でしょうか?

 私たちの身体の成分は、60%が水です。補給する水分が不足すると、筋肉に蓄えられている水分が燃えて体内の水分バランスを調整します。筋肉が少なければ、蓄えられている水分も少ないわけです。赤ちゃんやお年寄りが脱水症にかかりやすいのはこのためです。お年寄りの場合、季節や体調、体格にもよりますが、最低でも1日1,300mlの水分補給が必要です。また、年を重ねるほど筋肉は落ちていきます。70歳よりも80歳、80歳よりも90歳の人ほど水分補給に気をつけましょう。

 次に栄養ですが、ほぼ寝たきり状態でも1日1,300kcalが必要です。特に寝たきりの場合、栄養が不十分なために褥瘡(床ずれ)ができてしまうことも少なくありません。正しい除圧と栄養価の高い食事をしっかりとることで、褥瘡は防ぐことができます。

 このように、お年寄りを介護する上で、「1,300」という数字は非常に大切です。覚えておきましょう。

 さて、十分に水分や栄養をとりたくても、食べる機能の障害でうまく補給できない場合があります。「うまく食べられない」⇒「摂食・嚥下障害」⇒「経管栄養」⇒「口からは食べられない」と決めつけてはいませんか?今回は、口から入る食物が食道に流れていくまでの過程を追いながら、摂食・嚥下障害について、竹内孝仁先生(日本医科大学教授・医学博士)に伺いました。

摂食・嚥下

 食べる基本は、「かみかみ」「もぐもぐ」「ごっくん」です。健康なとき、食べる機能について考えながら食事をしている人は、あまりいません。しかし、そのメカニズムを知っていれば、咀嚼(噛み砕くこと)や嚥下(飲み込むこと)がうまくいかなくなった場合、どこに問題があるか見つけ出すことができます。まずは、じっくり観察してみましょう(図1)。

 

 

 

「かみかみ」できない⇒歯の治療は早めに

 食物を口に入れると同時に、私たちは食べやすくなるように小さく歯で噛み砕いています。ここで歯に問題があれば、うまく噛み砕けないことになります。

 歯だけの問題であれば、事前に食べやすい大きさに切り刻むきざみ食で対応することもできます。しかし、歯の治療をして、自分自身で噛めるようになるのが最も好ましい状態です。

 健康な人でも、噛み合わせのずれが原因で、肩こりや頭痛など思わぬ症状が現れることがあります。また「噛む」ことは、脳血流を刺激し、ボケ防止にもつながります。歯や歯茎の病気、入れ歯の調整などは早めにきちんと治療しましょう。

 最近では、訪問歯科治療を受けられる地域も徐々に増えてきました。また、通院介助などのサービスを利用して、歯科医に通うこともできます。

 

「もぐもぐ」できない⇒舌を清潔に

 食べやすい大きさになった食塊(食べ物のかたまり)は、舌の上で転がりながら唾液の力をかりて、飲み込みやすい形に整えられます。

 舌が真っ白になっている人がいますが、これは汚れが付着しているためです。唾液の力が十分に発揮されず、味覚も劣ってきます。また、口の中に細菌が増え、口臭の原因にもなります。歯を磨くことはもちろん、湿った脱脂綿でふきとるなどして舌の掃除もしっかり行いましょう。

脳卒中の後遺症やパーキンソン病で麻痺症状があるために舌を上手に使えない場合などは、あらかじめ食物を飲み込みやすい形にする(食塊形成)必要があります。この場合、きざみ食は不適当で、唾液のように粘度のあるトロミ食がいいでしょう。

 

「ごっくん」しずらい⇒座って食べよう

 口の中で「もぐもぐ」したまま、なかなか「ごっくん」できない場合があります。食べるときは座位をとりましょう。よく忘れがちですが、飲み込むときにきちんと口を閉じているかどうかが大切です。健康な人でも、口が半開きになっていると飲み込みにくいものです。また、「ごっくん」をするとき、顎は下にひきます。介護者が高い位置から介助すれば、顔は上向きになり、うまく「ごっくん」することができません(図2)。気をつけましょう。

食べるときの姿勢

図2

 高齢になるとむせやすくなりますが、これは喉がしっかりと反射している証拠です。また、そのときの体調によって飲み込めたり、飲み込めなかったりする場合は嚥下障害とはいえません。飲み込みやすいように食事をペースト状にするなどの工夫で改善します。中でもゼリーのようにツルンとしたものは、飲み込みやすい食品です。

 

テストと体操で状態をチェック

 嚥下反射がきちんと働いているかどうか、図3のテストで試してみましょう。喉の反射がないまま、食道に流れるべきものが肺に落ちてしまうと、誤嚥性肺炎になりかねません。問題がある場合は、専門医による治療を受けましょう。図4の体操を食事の前に行うと、口の動きが滑らかになります。はっきりと目が覚める効果もあります。

食前体操

 

竹内孝仁 医学博士

 

竹内孝仁 医学博士
日本医科大学リハビリテーション科教授。1966年日本医科大学卒業。
1973年から特別養護老人ホーム、1980年代から在宅高齢者のケア全般にかかわる。
『医療は「生活」に出会えるか』『介護基礎学』など著書多数。



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