介護の基礎知識 <08>

介護情報誌ハナさんVol.8 2001年05月掲載 特集08

痴呆のケア4原則で異常行動をなくす

 グループホームなどの職員から「あの人は痴呆が治った」という話を聞くことがあります。粗暴な行動をしたり、徘徊をしたりという異常行動がなくなったというのです。呆けがあることは確かで、ときどきもの忘れをしたり、モタモタしたりします。しかし、比較的機嫌がよく、職員が「ご飯ですよ」「お風呂の時間ですよ」という声かけをすることで、生活に支障をきたさなくなりました。

 痴呆症高齢者が完全に元の状態に戻ることはないかもしれません。しかし、円満で周囲の環境とあまりトラブルを起こさない、いい換えれば、異常行動がなくなり、本当の意味での呆けの状態しか残っていないところまで回復したとすれば、「治った」といってもよいのではないでしょうか。  

 痴呆は、老年期の精神障害です。精神障害は、疾病・症状・状況の3つの要素からなります。ですから、その状況を把握し、よい環境を作っていけば、症状つまり異常行動はなくなっていきます。「痴呆はどんどん進行して、治るはずはない」という医師もいますが、ケアの力で精神を安定させ、症状を改善することができるのです。

 今回は、異常行動がなぜ起こるのか、その原因と対策について竹内孝仁先生(日本医科大学教授)に伺いました。

 

痴呆のきっかけは「孤独」

 痴呆は、転居、入院、施設への入所、配偶者の死、職業からの引退など生活上の変化がきっかけとなることが多いようです。これには一つの共通点があります。それは「孤独」です。その人らしい人格を作りあげていた精神構造が環境の変化で崩れて、孤独の中で今までの自分どおりにふるまえなくなります。環境と孤独を克服できない適応力の低さが、高齢者を痴呆の世界に引きずり込んでしまうのです。

 自分を受け入れてくれる相手がいるかどうかは、人間の精神を支える重要な要因です。このようなことを踏まえて、ケアの原則を考えてみましょう。

 

痴呆のケアの4原則

1.「共にある」ケアを目指す

 痴呆は孤独の病気です。ですから、ケアする側が徹底して自分はこの人と「共にある」という態度をとることが大切です。その人の辛さ、苦しさを、ケアする側も同じように辛いだろうと思える、思おうとするかどうかです。

 痴呆のお年寄りに別のお年寄りがうまく接している姿を施設などでよく見かけます。そばにいて何かと世話をやき、つじつまの合わない話にも耳を傾けています

2.小人数の「安定した関係」を作る

 不安定な気持ちをとり除くため、安定した環境や関係を作ります。グループホームやデイサービスなどでは、メンバーを固定させ、5〜6人の仲間で安定した関係を作るのが理想です。小人数でなじみの関係を作りましょう。仲よし友だちを得て、精神が落ち着いた人もいます。

3.理由を考え、「行動の了解」をする

 なぜこういう行動をとるのか、我が身に引き寄せて解釈します。その行動を了解するのです。

 人の行動は、生活の延長上に現れてきます。その人の生活の歴史を徹底的に見ていきましょう。物への価値観や、態度、処理の仕方など、行動の理由は全てその人の人生に隠されています。この行動はその人の人生の一体どこから出てきたかを解明していくのです。解明すれば了解することができます。

4.異常行動の3タイプに応じたケアを

 痴呆のケアは、「異常行動をなくす」ことです。異常行動には3つのタイプがあり、まずはその人の症状をしっかり見極めることから始めます。

 「共にある」「安定した関係」「行動の了解」を基盤にして、それぞれのタイプにあったケアを行いましょう。 痴呆症状は、毎日繰り返していると、少しの刺激でも症状が起こるようになります。反対に、デイサービスなどで症状がでない時間を過ごすうちに、家でもだんだんと起こらなくなるという傾向もあります。

 

葛藤型 には孤独を感じさせないケアを

 一言いうとガーッと怒ったり蹴飛ばしたりする粗暴行為、物を盗られたなどの被害的言動、ティシュペーパーを食べるなど異食をする人は、自分が置かれている状況に異常反応で葛藤を示しています。

 このタイプは、孤独にしたときや何かを抑制したときに症状が出やすいのが特徴です。よく「目を離したすきに・・・」といいますが、「目を離したすき」ではなく、「目を離したから」、つまり孤独を感じさせたから行動に出たのです。誰かが一緒にいたり、人がそばにいるような雰囲気を作ることで落ち着いた例もあります。異常行動には必ずきっかけがあります。その原因を探り、とり除いてあげましょう。

遊離型 は現実に立ち戻るきっかけを一緒に見つける

 葛藤型とは反対に、ご飯を勧めても一口食べてはボーッとしてしまうなど、何を働きかけてもどういう言葉をかけても全く反応しない人は、辛い現実の世界から逃避してしまっています。

 この場合は、葛藤型とは逆のきっかけを探すことです。現実に懐かしさ、親しみやすさをとり入れつつ、引き込むようにして現実に立ち戻るきっかけを作っていきます。

 ミニデイサービスに来てボーっとしていた女性に、昼食後の皿洗いを手伝ってもらいました。最初のうちは職員が手を貸していましたが、だんだん一人で洗えるようになりました。2〜3ヵ月後にはニコニコと話ができる普通のおばあちゃんに戻ったそうです。これは、食器を洗うという現実の作業を通して、食器洗いという役割を担うことで現実に立ち戻ったのです。

きっかけは人それぞれですが、音楽療法、園芸療法なども、現実に流れているメロディや現実に咲いている花を糸口に、現実を気づかせ、現実に帰るきっかけを与えてくれます。

回帰型 はその人の過去につきあう

 昔の職業だった鉄道マンになるなど、過去の自分に戻ってしまうタイプです。帰る世界には特徴があり、つねに自分の「最もよき時代」です。徘徊は全てこのタイプに属すると考えられます。

 まず、その人の過去につきあうことです。その人がどういう世界に帰っているのかを見つけ、それがわかったら、その世界の一人を演じます。そして、できるだけ現実に戻ってくるように働きかけます。

 夜中の12時に「講義」に行く元大学教授がいました。翌朝「昨夜の講義はどうでしたか?」と尋ねると、「私は今、老人ホームにいて講義にいくはずがない」と答え、その夜から徘徊がなくなりました。

 その人の過去に私たちがつきあうことで、その人は孤独だった自分は一人ではないことを発見し、過去に帰る必要がなくなるのです。認知症のケア4原則

 

身体的不調も見逃さずに

 痴呆症状の悪化は、「身体的不調」が原因になっていることがよくあります。すぐに痴呆症状の悪化と判断せずに、水分補給はしっかりしているか、便秘はしていないかなどを見極めましょう。

 ある老人ホームで1日1,300ml以上の水分摂取を徹底したところ、17〜18人いた発熱者が0になり、9人ほどいた夜間せん妄状態者(うわ言をいったり、騒いだりする)が1人になったそうです。

 また、風邪や腹痛などのちょっとした病気が原因で、その不快感から痴呆症状が悪化することもあります。注意しましょう。

竹内孝仁 医学博士

 

竹内孝仁 医学博士
日本医科大学リハビリテーション科教授。1966年日本医科大学卒業。
1973年から特別養護老人ホーム、1980年代から在宅高齢者のケア全般にかかわる。
『医療は「生活」に出会えるか』『介護基礎学』など著書多数。



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