介護の基礎知識 <09>

介護情報誌ハナさんVol.9 2001年08月掲載 特集09

口の中を清潔に
正しい口腔ケアで身体の健康を守る

 口の中に問題があると、身体全体に悪影響が及びます。栄養不足、消化不良はもちろん、免疫力の低下や便秘・下痢、ひいては床ずれ、骨粗しょう症など様々です。

 肺炎をたびたび起こして毎年のように入院していた人が、口腔ケア(口の中の手入れ)を行ったところ、肺炎にかかるケースが少なくなったという話をよく聞きます。これは、歯みがきやうがいをすることで口の中の細菌が減ったことと関係します。口腔ケアの実践により、誤嚥(胃に入るべきものが肺に入ってしまう)性肺炎を著しく減少させたという事例は、医学会でも発表されています。

 また、噛むことで脳に様々な刺激が送られます。歯や義歯(入れ歯)をケアすることは、痴呆の予防にもつながるといわれています。さらに歯があることで、顔かたちや表情が保たれる、発音が明瞭になり言葉がはっきりするという利点もあります。

 おいしく食べる、楽しく会話する、そして健やかな生活を送るために、正しい口腔ケアの必要性について、遠藤慶一先生(遠藤歯科クリニック院長)に伺いました。

口の中に問題があると、身体全体に悪影響が及びます

口の中は病気の第一防衛線

 身体に病原菌などの敵が侵入したとき、細菌を攻撃して身体を守るシステムが免疫です。口の中でも、同じことが行われています。

 唾液には口の中を自浄する働きがあり、免疫力のある物質がいくつも含まれています。細菌が口の中に入っても、唾液の抗菌作用が働いて、口の中のバランスを崩さないようにしています(図1)。

 しかし、口の中が清潔に保たれていないと、細菌が繁殖して、様々な病気を引き起こしやすくなります。例えば、飲み込んだものが食道ではなく、肺や気管支に入ってしまうことがあります。このとき、口の中に潜んでいた細菌が、肺へ流れ込み、誤嚥性肺炎の原因となるのです(図2)。口の中を清潔にすることで、肺へ流れ込む細菌を減らすことができます。

 さらに、年をとると唾液の分泌量が減ってきます。その上、歯みがきやうがいを怠り、口の中が清潔に保たれていないと、その力を発揮できません。唾液の力を発揮できる環境を整えましょう。

 

義歯(入れ歯)、経管栄養でもケアは不可欠

 歯や歯茎はもちろん、義歯にも細菌はつきます。「歯がないから」「義歯だから」といって口の中をケアしないと、細菌が繁殖し、唾液の自浄効果が弱まってしまいます。 食べ物の残りカスをきちんととり除き、口の中を清潔に保ちましょう。食後の口の中は、食べた後の食器のように汚れています。義歯のある人は、毎食後、義歯をはずして磨くことを習慣にすれば、つねに清潔でいられます。

 また、経管栄養などで口から食物をとらない場合でも、呼吸を通して細菌が入り込んできます。しかも、あまり口を使わないと、唾液の分泌が起こりにくくなり、免疫力を発揮しづらくなります。口の中のケアが、より重要になってくるのです。

 舌の表面に灰白色の苔のようなものが生えている(舌苔)場合は、舌もきれいに清掃します。毛先の軟らかい歯ブラシか、専用の舌ブラシを使います。鉛筆をもつような感じでもち、力を入れずに舌の奥のほうからかきだすとよいでしょう(図3)。舌苔ができると、味覚が落ち、食事がおいしくなくなります。食欲がなくなり、口臭もひどくなってきます。舌苔は、脱水症や発熱、唾液の分泌の減少、口内炎、栄養状態の悪化などによって増殖していきます。これらの原因をとり除くことも必要です。

 

歯や義歯がないと、全身に悪影響が・・・

 歯が1本もないのに義歯も入れず、歯茎(歯肉)で食事をしている人がいます。これでは、軟らかいものしか食べられず、通常の硬さの食品や野菜などの繊維食品を噛み砕くことができません。食物を大きな塊のままで多量の水分と一緒に飲み込むと、胃や腸に大きな負担がかかってしまいます(図4)。

 ところどころ歯が欠けている場合も同じです。残っている歯に負担がかかり、歯のない隙間に傾いて力が加わってしまいます(図5)。次第に歯並びがずれ、うまく噛み合わなくなります。噛み合わせが悪くなると、口の中だけではなく、顎や顔の筋肉に影響が及び、話すことに支障をきたすなど、身体全体の健康状態が悪化していきます。

 自分の歯が残っている人、また義歯などで適切な処置をしている人ほど、身体の健康状態は維持されています。噛むことは、食物を細かくして消化を助けるだけでなく、唾液の分泌を促す、脳に刺激を与えるなどの役割もあります(図6)。よく噛み、よく味わい、楽しんで食べることで脳が刺激され、唾液の分泌が促進されます。歯を失わないように、また義歯が自分になじむように、日々のケアを心がけ、食事やおしゃべりを楽しみたいものです。

 

正しいケアと定期検診で健康生活

 歯や歯茎の状態によっては、歯科医などの専門家に相談することも必要です。長い間、義歯を口の中に入れたままだったり、義歯が合わずに使っていない場合は、すぐに診察を受けましょう。義歯を使って、足りない歯を補うことはとても大切です。また、使い慣れた義歯でも、歯や歯茎の変形などで次第に使いづらくなります。定期的に検診を受け、調整してもらいましょう。

 脳血管障害の後遺症で片麻痺があったり、よだれが出やすかったり、飲み込みが悪い人は、歯ブラシを使ったマッサージなどのリハビリ訓練をとり入れましょう。正しい口腔ケアの指導を受けることで、症状が軽減した例も多くあります。

 個人の状態により、ケアの方法は様々です。より適切なアドバイスを受けましょう。身体の状態が悪くて出向けない場合は、歯科医や歯科衛生士などによる訪問歯科診療や歯科衛生指導を受けられるよう、ケアマネジャーなどに相談してみるのがよいでしょう。

唾液の力

図1 唾液の力

細菌が肺に流れ込む

図2 細菌が肺に流れ込む

舌苔の清掃

図3 舌苔の清掃

 

 

 

消化液が十分に働けない

図4 消化液が十分に働けない

歯が欠けていると

図5 歯が欠けていると

噛む効果

図6 「噛む」と、こんな効果が・・・

遠藤慶一 歯学博士

 

遠藤慶一 歯学博士
岐阜歯科大学(現、朝日大学)卒業。
東京都北区口腔保健センター所長を経て、1987年神奈川県川崎市に遠藤歯科クリニック開院。
「口腔介護とケアマネジメント研究会」の主宰や、在宅歯科診療の研究なども手がける。



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