女子栄養大学付属の栄養クリニックでは、25〜30年前に栄養指導を受けた人たちを対象に追跡調査を行いました。いずれも何らかの不安や問題を抱えて食事指導を受けた人たちで、現在、平均年齢70歳です。およそ100人から回答が戻り、介護を受けている人はわずか1人、生活習慣病の代表ともいえる糖尿病にかかっている人は6人だけでした。厚生労働省の調査では、70歳以上のおよそ4人に1人が糖尿病の疑いがあるという数字がでています。これに比べ、栄養指導を受けた人たちが健康を維持している割合が高いのは、25年以上前に受けた食事指導に従った食生活を続けてきた賜物といえるのではないでしょうか。
栄養クリニックでは、「3・3・3」を合言葉に、誰もが容易に続けられる食事指導を行っています。実は私たちが一回に食べる食品の量は、例えば卵1個、バナナ1本など80kcal(キロカロリー)に近いものが多いのです。そこで80kcalを一つの単位として、栄養的な特徴ですべての食品をグループ分けし、その中から「3・3・3」を目安に1日の食事を組み立てていきます。この方法なら細かい栄養計算をしなくても、体に必要な栄養素をまんべんなくとることができます。そこに自分の体重と相談しながら、エネルギーとなる食品をプラスしていけばよいのです。この方法はすべての成人にあてはめることができます。糖尿病や腎臓病など食事療法を必要とする人でも考え方の基本は同じです。今回は、栄養クリニックの創設者である香川芳子先生(女子栄養大学学長)に、「3・3・3」のとり方と栄養の基礎知識について伺いました。
最初の「3」は、栄養の基本となる乳・乳製品と卵からとります。まず第一にとりたいのは、牛乳です。牛乳には日本人に不足しがちなカルシウムが豊富に含まれ、吸収率も高い食品です。カルシウムは骨を丈夫にし、骨粗鬆症の予防にもなります。牛乳はコップ2杯が目安です。牛乳を飲むとお腹がゴロゴロしてしまうのは、体の中で乳糖の消化ができないためです。そういう人でも少しずつ飲んでいけば、100mlくらいは飲めるようになります。また、同じ乳製品でもヨーグルトやチーズはその心配がありませんから、それらでも構いません。脂肪が気になる人は、低脂肪や無脂肪の製品を選ぶとよいでしょう。
また、卵は栄養の宝庫です。ほかの栄養がなくてもそれ自体で雛にかえります。卵一つで、他の食品からはとりにくい栄養素がしっかりと補給できます。コレステロールを気にして避ける人もいますが、コレステロールは人間の体に必要なものです。問題は、必要以上にとりすぎるために起こるのです。
次の「3」は、魚や肉と畑の肉ともいわれる豆・豆製品です。体や筋肉、血液になります。良質のたんぱく質を多く含み、栄養価の高い食品群です。床ずれの原因の一つは栄養不足です。新しい組織を作ってくれるたんぱく質を十分にとりましょう。魚一皿、肉一皿、豆・豆製品一皿が目安です。
赤身の魚や肉には貧血を防ぐ鉄分が多く含まれます。魚の脂肪にはコレステロールを低下させる働きや、脳梗塞・心筋梗塞のもとになる血栓を予防する多価不飽和脂肪酸が多く含まれています。また、まぐろのすり身(ねぎとろ用)は適度に脂を含んで飲み込みやすいので、嚥下力の衰えてきた人でも食べやすい食品です。豆・豆製品は魚や肉に劣らない良質のたんぱく質を含みながら、脂肪が少なく低エネルギーで、特に豆腐類は消化しやすいのが特徴です。
最後の「3」は、スーパーの野菜・果物のコーナーにあるものです。ビタミン、ミネラル、繊維を多く含み、体の機能を調整します。繊維を多くとることは便秘の予防にもなります。
野菜は毎食たっぷり二皿(1日六皿)食べましょう。にんじんやほうれん草など色の濃い野菜とキャベツやねぎなどの色の薄い野菜、きのこや海草もその働きから同じ仲間に入れます。野菜は生のままでは量を多く感じますが、熱を加えて調理するとカサが減って食べやすくなります。加熱によりビタミン類は多少減りますが、繊維はほとんど変わりません。ピュレー(すりつぶし)にしたり、刻んだりしても構いません。味噌汁やスープの具にすれば、たっぷりとることができます。
さらに野菜とは別に、芋はじゃがいもで中1個ぐらい、果物はバナナで1本程度をとります。芋類はビタミンCの宝庫であり、繊維もたっぷり含んでいます。また、加熱してもビタミンの損失はほとんどありません。じゃがいもなら1個でりんごの5〜10倍のビタミンCを含んでいます。ラップに包んで電子レンジに入れれば、数分でホクホクになります。
イラストはすべて、目安となる80kcal相当の量です。1群から乳・乳製品2点(牛乳を2点でも、牛乳とヨーグルトの組み合わせでもよい)、卵1点を選びます。2群からは魚介類・肉類2点と豆・豆製品1点、3群からは野菜1点、芋類1点、果物1点を選びます。このように各群から「3・3・3」、合計9点のイラストを選ぶと、1日に必要な栄養素をしっかりと確保でき、およそ720kcal(80kcal×9点)のエネルギーがとれることになります。
エネルギー不足が続くと体重が減り、やせすぎると体力がなくなって、風邪をひいたり傷の治りが悪くなったりします。一般に高齢者の場合、ほぼ寝たきりの人で1日およそ1,300kcal、デイサービスに通う人でおよそ1,500〜1,600kcalのエネルギーが必要です。「3・3・3」だけではエネルギーが不足するので、足りない分を自分の体重や体調と相談しながら、エネルギーとなる食品(4群)で補います。まずは穀類をしっかりととり、油脂と砂糖は調味料として使う目安に、嗜好品は控えめにします。菓子などの嗜好品はエネルギーの補給にはなりますが、他の食品に比べエネルギーばかりで、たんぱく質やビタミン、ミネラルなどの栄養価はまったく含まれないものも多いからです。
食品は生産地や季節、同じものでも部位によって栄養成分が異なります。また、調理法や食べる人の状態によって、食欲も栄養の吸収率も変わってきます。細かい栄養計算をするよりはむしろ、魚なら切り身一つ、豆腐なら1/3丁と、1日に食べるべき食品の種類と目安になる大きさを覚えましょう。「3・3・3」の食品が毎日の食卓に含まれるように心がけ、健康の維持・改善に努めましょう。

