「何をしているときが楽しいですか?」とお年寄りに尋ねると、「食事をしているとき」という答えが多く返ってきます。また「食事はおいしいですか?」と伺うと、「好きなものを食べているとき」や「みんなで食べているとき」はおいしく感じるが「一人で食べているとき」や「歯が痛いとき」はおいしく感じないといいます。
食べることは、動物にとっては単に空腹を満たすだけの本能的行動ですが、人にとっては生活の質や生きる意欲にもつながる大切な行為です。私たちの祖先は食物をおいしく食べようとして、火や道具を使うことを発見し、脳を発達させてきました。そして、よく噛んで味わうことによって、心地よい刺激を脳に与え、豊かで人間らしい脳が生まれたといわれています。
しかし、高齢になったり障害を持つと、筋肉の衰えや神経の麻痺などによって食べる機能が低下してしまい、おいしく食べられなくなってしまいます。さらに生きる意欲さえも失ってしまうことがあります。いつまでもおいしく食べるためには、食べる環境はもとより、口の健康や食べる機能などのあらゆる環境を整えることが必要です。それには日常の動作から問題を早期に発見し、対応していかなければなりません。今回は、おいしく食べる環境・機能のチェックポイントと対応について市川文裕先生(市川歯科医院院長)に伺いました。
□ 食卓は明るいですか。
□ 食卓は清潔ですか。
□ 食卓は落ち着いた雰囲気ですか。
□ 家族と一緒に食べていますか。
□ 食事はおいしそうに見えますか。
□ 食べやすい食事を考えていますか。
□ 食べやすいスプーンや箸を使っていますか。
□ テーブルや椅子は体に合っていますか。
部屋にポータブルトイレを置いたまま食事をしていることはありませんか。食欲は、五感を通しておいしく食べようとする意欲に変わります。そのため、部屋の掃除・換気はもちろん、照明やテーブルクロスの色、食べ物の盛り付け方などにも気を配りましょう。
また、噛んだり飲み込んだりする障害の程度によって、硬さやとろみにも配慮が必要です。食べやすい食器を選んだり、食べやすい姿勢をとることも重要です。
□ 口は開きづらいですか。
□ 歯は痛いですか。
□ 歯肉が腫れていませんか。
□ 入れ歯が壊れていませんか。
□ 口がよく渇きますか。
□ 舌の上が白くなっていますか。
□ 最近味が変わってきましたか。
□ 口臭が気になりますか。
「歯が痛い」「歯がグラグラする」「入れ歯が壊れている」状態では、上手に噛むことができません。また、口の中が汚れていたのでは味を感じづらいものです。
そのような時は、歯科医院や訪問歯科診療で治療を受けましょう。また、口腔清掃を十分に行って、口の中の菌によっておこる肺炎(誤嚥性肺炎)や口臭にも気をつけましょう。
□ 軟らかいものを好みますか。
□ 食べ物をよくこぼしますか。
□ よだれがよく出ますか。
□ 会話が分かりにくいですか。
□ 食事の時間が長くなりましたか。
□ 食後、食べ物が口の中に残っていますか。
□ 食事が喉に詰まる感じがありますか。
□ 水やお茶にむせますか。
□ 食事中によくむせますか。
□ 食事中によく咳込みますか。
□ 痰がよくからみますか。
□ 食後、かすれ声やガラガラ声になりますか。
□ 食事が胸に詰まる感じがありますか。
食べ物を口に取り入れて、よく噛んで、飲み込むまでには、さまざまな筋肉や神経を使います。それらの機能が衰えてくると、食べ物が唇の麻痺によって口からもれたり、飲み込んだ後口の中に残ったりします。
さらに、飲み込むときの喉のタイミングがずれて、食べ物が肺に入ってむせたり、咳込んだりします。また、唾液の量が少なくなると、口が乾燥して話づらくなったり、飲み込みづらくなってしまいます。
予防のためには、それらの筋肉や神経を活性化させたり、唾液を出しやすくする必要があります。食べる機能のリハビリには専門的に数多くの方法がありますが、誤嚥や窒息を起こす危険もあるので、専門家に相談した方がよいでしょう。家庭でできるリハビリは、食べるために使う筋や神経、唾液腺への繰り返しのマッサージや運動訓練(食前体操)が効果的です。
おいしく食べるためには、脳の神経の7〜8割を使うといわれています。これは、食べる機能を活発にすると、脳の機能まで回復させる働きがあることを意味します。衰えた筋肉や神経の活性化、減少した唾液の分泌促進のためには、リハビリをかねたマッサージや運動(食前体操)が有効になります。





いわき食介護研究会(高齢者や障害者のおいしく食べる環境を、職域を越えて研修する会)監修による
ラジオ体操のリズムに合わせた「おいしく食べるための食前体操」のビデオがあります。
いわき食介護研究会のホームページ http://www.e-taberu.com