介護の基礎知識 <13>

介護情報誌ハナさんVol.13 2002年08月掲載 特集13

いつまでもおいしく食べるために − チェックポイントと食前体操 −

 「何をしているときが楽しいですか?」とお年寄りに尋ねると、「食事をしているとき」という答えが多く返ってきます。また「食事はおいしいですか?」と伺うと、「好きなものを食べているとき」や「みんなで食べているとき」はおいしく感じるが「一人で食べているとき」や「歯が痛いとき」はおいしく感じないといいます。

 食べることは、動物にとっては単に空腹を満たすだけの本能的行動ですが、人にとっては生活の質や生きる意欲にもつながる大切な行為です。私たちの祖先は食物をおいしく食べようとして、火や道具を使うことを発見し、脳を発達させてきました。そして、よく噛んで味わうことによって、心地よい刺激を脳に与え、豊かで人間らしい脳が生まれたといわれています。

 しかし、高齢になったり障害を持つと、筋肉の衰えや神経の麻痺などによって食べる機能が低下してしまい、おいしく食べられなくなってしまいます。さらに生きる意欲さえも失ってしまうことがあります。いつまでもおいしく食べるためには、食べる環境はもとより、口の健康や食べる機能などのあらゆる環境を整えることが必要です。それには日常の動作から問題を早期に発見し、対応していかなければなりません。今回は、おいしく食べる環境・機能のチェックポイントと対応について市川文裕先生(市川歯科医院院長)に伺いました。

1.「食べる環境」について
「いいえ」と思うものをチェックしてみましょう。

□ 食卓は明るいですか。 
□ 食卓は清潔ですか。 
□ 食卓は落ち着いた雰囲気ですか。
□ 家族と一緒に食べていますか。 
□ 食事はおいしそうに見えますか。 
□ 食べやすい食事を考えていますか。 
□ 食べやすいスプーンや箸を使っていますか。
□ テーブルや椅子は体に合っていますか。

●「いいえ」にチェックのある人は、
食べる環境を見直しましょう。

 部屋にポータブルトイレを置いたまま食事をしていることはありませんか。食欲は、五感を通しておいしく食べようとする意欲に変わります。そのため、部屋の掃除・換気はもちろん、照明やテーブルクロスの色、食べ物の盛り付け方などにも気を配りましょう。

 また、噛んだり飲み込んだりする障害の程度によって、硬さやとろみにも配慮が必要です。食べやすい食器を選んだり、食べやすい姿勢をとることも重要です。

2.「口腔の健康」について
「はい」と思うものをチェックしてみましょう。

□ 口は開きづらいですか。 
□ 歯は痛いですか。 
□ 歯肉が腫れていませんか。 
□ 入れ歯が壊れていませんか。 
□ 口がよく渇きますか。 
□ 舌の上が白くなっていますか。 
□ 最近味が変わってきましたか。 
□ 口臭が気になりますか。

●「はい」にチェックのある人は、
治療を受けましょう。

 「歯が痛い」「歯がグラグラする」「入れ歯が壊れている」状態では、上手に噛むことができません。また、口の中が汚れていたのでは味を感じづらいものです。

 そのような時は、歯科医院や訪問歯科診療で治療を受けましょう。また、口腔清掃を十分に行って、口の中の菌によっておこる肺炎(誤嚥性肺炎)や口臭にも気をつけましょう。

3.「食べる機能」について
「はい」と思うものをチェックしてみましょう。

□ 軟らかいものを好みますか。 
□ 食べ物をよくこぼしますか。 
□ よだれがよく出ますか。 
□ 会話が分かりにくいですか。 
□ 食事の時間が長くなりましたか。 
□ 食後、食べ物が口の中に残っていますか。 
□ 食事が喉に詰まる感じがありますか。 
□ 水やお茶にむせますか。 
□ 食事中によくむせますか。 
□ 食事中によく咳込みますか。 
□ 痰がよくからみますか。 
□ 食後、かすれ声やガラガラ声になりますか。 
□ 食事が胸に詰まる感じがありますか。

●「はい」にチェックのある人は、
リハビリをしましょう。

 食べ物を口に取り入れて、よく噛んで、飲み込むまでには、さまざまな筋肉や神経を使います。それらの機能が衰えてくると、食べ物が唇の麻痺によって口からもれたり、飲み込んだ後口の中に残ったりします。

 さらに、飲み込むときの喉のタイミングがずれて、食べ物が肺に入ってむせたり、咳込んだりします。また、唾液の量が少なくなると、口が乾燥して話づらくなったり、飲み込みづらくなってしまいます。

 予防のためには、それらの筋肉や神経を活性化させたり、唾液を出しやすくする必要があります。食べる機能のリハビリには専門的に数多くの方法がありますが、誤嚥や窒息を起こす危険もあるので、専門家に相談した方がよいでしょう。家庭でできるリハビリは、食べるために使う筋や神経、唾液腺への繰り返しのマッサージや運動訓練(食前体操)が効果的です。

おいしく食べるための・食前体操

 おいしく食べるためには、脳の神経の7〜8割を使うといわれています。これは、食べる機能を活発にすると、脳の機能まで回復させる働きがあることを意味します。衰えた筋肉や神経の活性化、減少した唾液の分泌促進のためには、リハビリをかねたマッサージや運動(食前体操)が有効になります。

 

A.首の体操 
1首を前後にゆっくり動かします。
2首を左右斜めに動かします。
3首を左右横に動かします。
4首を左右にゆっくり回します。

首の体操

B.口のまわりの筋肉をマッサージ 
1左右の頬をもむようにマッサージします。
2左右のあごの下をもむようにマッサージします。
3上唇の上をもむようにマッサージします。
4下唇の下をもむようにマッサージします。
5あごの下をもむようにマッサージします。
6首の左右をもむようにマッサージします。

口のまわりの筋肉をマッサージ

C.あご・唇の体操
1口を開けたり、閉じたりします。
2頬をふくらましてみます。
3大きい口であ・い・う・え・お・と発音します。
4パッ、パッ、パッ、とはっきり発音します。
5タカ、タカ、タカ、とはっきり発音します。

あご・唇の体操

D.舌の体操
1舌を出したり、入れたりします。
2舌で上唇、下唇をなめます。
3舌で唇を左右なめ回します。
4舌で左右の唇の角をなめます。
5舌の先で唇の内側をなめまわします。
6舌の先で左右の頬を押し付けます。

舌の体操

 

市川文裕 院長

 

市川文裕 院長
日本大学歯学部卒業。1979年より福島県いわき市にて市川歯科医院を開業。
様々な職種の方々が集まり、おいしく食べる環境を守る研究に取り組む「いわき食介護研究会」を主宰。
厚生労働省介護支援専門員指導者、福島県歯科医師会介護保険実行委員会委員長など幅広く活躍。

いわき食介護研究会(高齢者や障害者のおいしく食べる環境を、職域を越えて研修する会)監修による
ラジオ体操のリズムに合わせた「おいしく食べるための食前体操」のビデオがあります。

いわき食介護研究会のホームページ http://www.e-taberu.com



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