食事は誰にとっても楽しみの一つであり、食欲は健康のバロメーターともいわれています。しかし、年をとると共に身体の様々な機能が変化し、「食べること」に必要不可欠な「噛み切る」「噛み砕く」「飲み込む」など、口の中の機能も段階的に低下して、食欲まで失ってしまうことも少なくありません。しかし、健康を維持していくためには、食事は切っても切り離せないものです。日々の食事に食べにくさを感じるならば、その人の状態に応じて「食べやすい食事」を工夫して準備する必要があります。
ところで、「お年寄りの食事」や「介護食」といわれるものは、どういう食事をさすのでしょうか。栄養バランスがよいことはもちろん、消化吸収されやすく、安全で食べやすいこと、おいしく味わえることはいうまでもありません。何よりも調理をした人が食べて「おいしい」と感じる食事であることが大切です。また、見た目や香りなども食欲に大いに影響します。ときには、目からの刺激や香りにそそられ、思わずツバを飲み込んでしまうようなこともありますね。お年寄りも同じです。食べておいしいと感じるのは、口からの感触だけでなく、心理的な要因も大きく影響しているからです。できれば家族と同じ食事にひと手間加えた我が家の味を、家族と一緒に食卓を囲み味わって欲しいものです。
今回は、摂食(食べること)・嚥下(飲み込むこと)機能の低下にともなう食形態と調理の工夫について、増田邦子先生(特別養護老人ホーム菅の里 管理栄養士)に伺いました。
私たちは食物を口に入れると同時に、食べやすくなるように小さく歯で噛み砕いています。噛み合わせに問題があるなどうまく噛み砕けないときには、咀嚼(噛み砕くこと)力を補うために、食材を軟らかく煮たり、食べやすく切ります。
噛み砕き食べやすい大きさになった食物は、唾液の力をかりて食塊(飲み込みやすい形)に整えられ、喉を通って食道に送り込まれます。しかし、脳卒中の後遺症などで麻痺があり舌をうまく使えなかったり、唾液の分泌が少ない場合もあります。このようなときは、つぶしたり、細かく刻んだものにトロミをつけ、飲み込みやすいようにまとめます。
口の中で「もぐもぐ」したまま、なかなか飲み込めない場合もあります。このような場合は、ミキサーにかけて粘度を調整しながらペースト状やゼリー状にするなど飲み込みやすい形態に整えます。「肺炎・発熱を繰り返す」「食事中や食後にむせたり・咳込むことが多い」「食後よく声が変わる」などの症状が見られる場合は、誤嚥(食道に入るべきものが気管に入ってしまう)の可能性があるので、適切な検査や治療・訓練を受けましょう。
主食であるご飯の形態は大きく「ご飯」「お粥」「ミキサー粥」の3つに分けられます。どれくらいの軟らかさが食べられるかは、おかずの形態を考える上での目安にもなります(右表参照)。「ご飯」は水分をやや多くして炊きあげたやわらかご飯、「お粥」は少しなめらかなふっくらとしたものが好まれます。お粥の粒が口に残る人はミキサーにかけます。回転数をあげると甘味のあるおいしいミキサー粥ができます。「ミキサー粥」は水分が多いと食べにくくなるので、飲み込みの状態によっては、嚥下補助食品で重湯にトロミをつけたり、重湯ゼリーにします。
副食、やわらか食では挽肉を使う場合、野菜や酒などの水分を加え、混ぜてしまりを防ぎ軟らかく仕上げます。豚の角煮などブロック肉を使う料理は、長く煮込んだだけでは繊維が口の中に残りやすいので、圧力鍋を使いじっくり煮込み、繊維を切るように盛りつけます。トンカツや酢豚は薄切り肉を重ねて調理します。一見、肉のかたまりに見えますが、繊維が切れているので軟らかくなります。野菜などで気になるものは繊維を切って下ごしらえすると食べやすくなります。
ペースト食やゼリー食は、調理したものをミキサーやすり鉢などを使って作ります。この場合、具材全てを混ぜてしまうよりも、食材の味や彩りなども考えながら分けて作りましょう。また、仕上げの際には必ず味見をし、食べる人の飲み込みやすい濃度に調整することも忘れてはいけません。見映えよく型で抜いたり、食べやすい深めの器を選ぶことなども料理の仕上げとして大切な要素です。また、形のあるものは本人に見せて、目の前でつぶすなどの気配りもおいしさに影響を与えます。

