介護の基礎知識 <19>

介護情報誌ハナさんVol.19 2004年04月掲載 特集19

快適な口でよりよく生きる

 口は食物や酸素を取り入れるという大切な役割を果たしていますが、同時に細菌も入れてしまいます。口の中に入った細菌は「食べカスが残っている」「口の中が乾いている」など生息しやすい環境であれば、たちまち増殖して歯や歯肉を弱めます。さらに細菌が誤って唾液と一緒に肺に流れ込むと肺炎を起こす可能性もあるのです。

 また、前歯は食物を噛み切り、奥歯は噛み砕くという大切な役割を持ち、奥歯で噛み潰すことで食物の旨味を十分に味わえたり、胃での消化を助けたりもします。さらに噛む行為は唾液の分泌や脳への血流をよくし、噛みしめることで全身に力も入ります。しかし、歯を失えばこうした機能が使えないばかりか、顔の表情にも張りがなくなるなど見た目にも全身にも悪影響を及ぼしてしまいます。

 百獣の王ライオンが歯を失うことは死を意味すると言われています。それに比べて人間は、日頃のお手入れで歯を健康に保つという知恵をもち、歯が弱っても「治療をする」「食べやすく調理をする」など多くの手段をもっています。今回は、歯科衛生士の牛山京子先生に快適な口を維持するためのポイントをお伺いしました。口の中に問題があれば今すぐに歯科の治療を受け、毎日のお手入れをしっかりして健康な口を取り戻しましょう。

 

歯ブラシを選ぼう

 歯ブラシは歯の汚れを落とすためのものと粘膜用に2本くらい用意するとよいでしょう(写真A)。高齢者の多くは粘膜が薄く弱くなっていて傷つきやすいので、軟毛で刺激の少ないものを選びましょう。握力の弱い場合歯の汚れを落とすためのものと粘膜用粘膜に触れたときに痛みを感じるようであれば、より軟らかいものに替える必要があります。毛の硬さはメーカーによって多少異なるので、毛の質を確認しながらその人に合うものを選択してください。歯ブラシの植毛部分は3列に並んだものがみがきやすいようです。

 

使いやすい工夫、曲がっているほうが使いやすい場合太く握りやすいように
上手にみがける工夫をしよう

 なんらかの障害はあるけれど自分でみがけるという人には、使いやすいように歯ブラシに工夫を凝らしたものを準備しておくと便利です。握力の弱い場合は歯ブラシの柄にビニールを巻き10cmくらいに切ったホースを差し込んだり(写真B)、クッション性のあるビニールを巻いて太く握りやすいようにします(写真C)。強い力で大きく歯ブラシを動かしてしまう場合

 ヘッドが曲がっているほうが使いやすい場合は、歯ブラシの毛が燃えないようにホイルで巻いて、ヘッドの部分をライターの火で暖めて少しずつみがきやすい角度に曲げていきます(写真D)。ゴシゴシと強い力で大きく歯ブラシを動かしてしまう場合は、5cmほどの紐に鈴を付けて歯ブラシの柄の先に付けてあげれば(写真E)、みがいているときに「鈴の音が鳴らないように」「鈴の音を小さく」と、力加減をアドバイスしやすくなります。麻痺などで手が上がらず奥の歯がみがきづらい場合は、割り箸2膳をビニールテープで柄に巻きつけて長くしたり、その上からホースを差すと握りやすくなります(写真E)。うがいを吐き出すもの

 また、洗面所に行けない人にはうがいを吐き出すものとして、ペットボトルや洗剤の空き容器などに穴をあけたもの(写真F)が便利です(切り口をライターなどで暖めてまるめると滑らかになります)。透明な容器を利用することで、歯みがきを嫌がる人でも自分で口の中の汚れを実感できるので、自ら進んでみがくようになったという例もあるそうです。

※火を使う場合は火傷などに十分気をつけて行いましょう。

 

汚れをチェックしよう歯垢のつきやすい場所

 明るい所(またはライトを照らして)で、鏡を使って口の中を見てみましょう。歯垢のつきやすい場所は、歯と歯の間、歯と歯肉の境目、奥歯の溝などです。また、口蓋(口の中の上部)や舌にも汚れが付いていることが多く、麻痺がある場合は麻痺側に多く付いていることもあります。入れ歯を使っている場合は、歯肉との間やバネのかかっている所に汚れがたまりやすいので、毎食後外して口の中も入れ歯も歯ブラシを使ってきれいに洗いましょう。

 

歯をみがこう

 調理用の秤に歯ブラシを押しあて、目盛が200gになるくらいが理想の力加減です。1ヵ所につき20回、クシュクシュクシュと細やかに5mm前後動かします。介護者が行う場合は鉛筆を握るようにもち、汚れたら水を入れたコップなどでこまめに歯ブラシを洗いながら行います。「粘膜の清掃とマッサージ」は介護レポート19「元気な口を取り戻そう」のイラストを参考にしてください。

歯のみがき方のポイント

イラスト:いのした歯科医院 井下万也

*口の中の状況は人によって異なります。歯ブラシの選び方・歯のみがきかたなどは 歯科の専門家(歯科医、歯科衛生士)から適切なアドバイスを受けましょう。

介護レポート<19> 元気な口を取り戻そう はこちらから

牛山京子 歯科衛生士

 

牛山京子 歯科衛生士
山梨県歯科衛生士学院卒業(現、山梨県歯科衛生専門学校)。
山梨県歯科衛生士会会長をはじめ多くの役職を歴任。山梨県で在宅訪問による口腔ケア・指導を手がけながら、大学や専門学校での非常勤講師、全国各地の講習会などでも精力的に活動。著書多数。



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