食べる機能としての口、話す機能としての口が、口腔ケアを通してどう蘇るのか。京都食支援勉強会では、口の機能に大なり小なり問題を抱える人たちと時間をかけて向き合い、観察し、個々の問題解決に向けて対応することを積み重ねてきました。口腔機能の回復は、口の中だけをケアしようとしても解決しきれない様々な問題が絡んでいることも少なくありません。ここで提案されている口腔機能を重視したケアは、単に栄養や水分の摂取を目的とするだけでなく、排泄のコントロールや睡眠などの生活リズムを整え、食べる楽しみや笑顔を取り戻すためのトータルなライフケアを視野に入れています。
全国どこに住んでいても「口から食べること」「話すこと」の専門的支援を受けたいという家族の願いは切実です。今回は、「安全に安心して口から食べてもらいたい、潤った元気な口を維持し、生きる意欲を持ってもらいたい」という思いで活動している京都食支援勉強会での事例を通して、口腔機能と食形態について歯科衛生士の金子みどりさんに伺いました。
日頃から健康管理には気を遣っているという徳市さん( 83 歳)ですが、口の中でバラバラになりやすい硬めのごはんやワカメなどを食べると、のどにたまっているような感じがして咳込んでいました。そのため毎日の食事は軟らかめに、のどの調子と相談しながら自炊しているそうです。

歯科医に徳市さんの口の中をチェックしてもらったところ、使い込んでいた入れ歯の土手がすり減り、右へ左へとグラグラ動くことがわかりました。このことが原因で、十分に食物を噛むことができていなかったようです。
入れ歯を使用していなくても、安定の悪い入れ歯でも食物を噛むことはできますが、噛み合わせが悪いとしっかり噛むことはできません。実際には、“よく噛む”ことで唾液の分泌が促され、口の中が潤っておいしく味わうことができるのです。
よく噛み、唾液と混じりあった食物は、口の中で軟らかく飲み込みやすい食形態に変化します。しかし、唾液の分泌が不十分な場合や、のどに引っかかるようであれば、あらかじめ飲み込みやすくなるように調理するなどの工夫が必要になります。
また、入れ歯を使用することは食物を噛み砕くだけでなく、顔つきをよくし、よく噛むことで脳にもしっかり刺激が伝わるなど多くの利点があります。徳市さんの場合も、口にぴったり合う入れ歯に替えたことで、いくつもの懐かしい食感を再び味わえたり、見た目にも若々しさを取り戻すことができ、仲間との会話も弾み笑顔が多くみられるようになりました。

徳市さんのように飲み込む機能が低下しても喀出力(咳で押し出す力)があれば、食物がのどに貼り付いたり、誤嚥(胃に入るべきものが肺に入る)しそうになっても咳で押し返すことができます。また、入れ歯を調整する、食べやすく調理する、食べる姿勢を整えることなどで解決できることもあります。
しかし、のどの動きが弱々しかったり、湿性のむせ(小さく湿って切れが悪い)がみられる場合などは誤嚥の可能性が出てきます。さらに口の中の細菌が肺に入ると誤嚥性肺炎となり、生死にかかわることにもなりかねません。口の中を清潔に保ち、細菌を増殖させないことも大切です。
実際に対象者の食べ方をよく観察し、なかなか飲み込めなかったり、湿性のむせがみられるときは、医師の診断を受け誤嚥や誤嚥性肺炎を予防しましょう。


