長い人生を歩んでこられたお年寄りの食事には、慣れ親しんできた味や食習慣への配慮が大切です。食事はその人の過ごしてきた時代的背景や環境から作られた食習慣、文化がとても深く関係しているので、懐かしい地方独自の料理や季節の行事食などはぜひ取り入れたい献立です。
食べ物の好みは飲み込みを誘うための大きな因子であり、食欲を高める効果があります。特に食欲がないときには好物で食欲を呼び起こすことも一つの手です。物理的には理解しにくいことですが、好物であれば食べにくいはずのものでも、むせることなく、のどにつかえず食べてしまうこともあるからです。また、一人ひとり好きな食べ方や食べるペースがあるので、そうしたことも理解しながら食べやすい環境を整えることが必要です。
食べることは、そのときの体力、気分、意識レベルなど様々なことが要因となっているので、その人の食べる機能にあった食形態とともに、その人の食生活や食行動を考えた気配りができてこそおいしく食べられる食事になるのです。おいしく食べてもらうためには、その人の健康状態や身体機能も十分に把握し、食を介護の視点で生活全体から捉えることが大切です。
今回は管理栄養士の増田邦子先生に、食事をおいしく味わってもらうための調理法と食べる環境を整えるための考え方について教えていただきます。楽しみ、満足感、食欲を引き出すためのきっかけ作りなど食事を多方面から検討し、栄養状態を把握しながら低栄養の予防・改善を目標に、一人ひとりに適した食事を考えていきましょう。
食欲が低下しているとき、「もしかしたら?」と思い当たることはありませんか。例えば、噛みにくそうにしているとき「入れ歯の具合が悪いのでは?」と思えば、歯科医に診てもらう必要がありますし、「料理に問題があるのでは?」と思えば、素材選びや調理法を工夫してみる必要があります。
食器や箸などが使いにくく食べることで疲れがみえたり、嚥下困難や摂取不良による低栄養状態、脱水や便秘、あるいは精神的な不安からの食欲不振など、その人の健康状態、身体機能を注意深く観察して、変化に気付いたらその都度改善していきましょう。
「鮮度のよいもの」「食べやすい食品、やわらかく調理しやすい食材」を選びましょう。日本は海の幸、山の幸に恵まれ四季折々の食材が楽しめます。「旬の素材」を取り入れた昔ながらの日本食はお年寄りにとても喜ばれます。
1.主食は「エネルギー源」
2.副食の主菜皿は肉や魚など「たんぱく源」
3.4.副菜の野菜などには「ビタミン」「ミネラル」「食物繊維」
5.汁物は「のどごしよく食べる」
6.デザートなど甘いものや好きなものは「食べるきっかけ作り」。
それぞれの食品には様々な栄養素が含まれていますが、このように器単位で組み立てると栄養バランスを整えやすくなります。

介護食の場合「栄養バランス」はもちろん、一食の献立の中で「食べやすさを組み立てる」ことがとても重要になります。例えば、多少パサつく魚もやわらかいおかゆと交互に食べることで食べやすくなります。また、口の中に残りやすいおかずの後にツルリとしたゼリーを食べれば、のどの通りがよくなります。
ゼリー食やペースト食は均一で見た目の変化や食欲を失いがちですが、魚は魚の型で抜く、やわらかく調理した形のあるものを本人の目の前でつぶす、添え物などで彩りを加えるなど「見た目の美味しさ」が加わると、食欲も減退せず食べる楽しさが増してきます。
また、献立の中に塩味のもの、甘いもの、酸っぱいものをバランスよく組み合わせることで「味に変化」ができ一食を最後までおいしく食べることができます。
食べる時間が長くなると疲れて食べるペースがより遅くなってしまいます。30分以上かかるようであれば、声かけをして食べる行為を促したり、半介助するとよいでしょう。おいしく食べてもらうには、食事全体を考えて献立を組み立てることが大切です。
食べやすい=「口あたりよくやわらかい」「噛み切りやすい」「飲み込みやすい」です。素材の持ち味を活かしながら、下ごしらえや切り方などの工夫でおいしい介護食を作りましょう。食べやすく、食欲を高めるためには盛り付けの工夫も大切です。調理の工夫については4〜5ページで具体的に解説します。
「むせやすい」「麻痺がある」「食べ方がわからない」「食べ物を口に入れても反応がない」「目が見えない」など、介護が必要な人の状態は様々です。その人に合った「食器・自助具の選択」「姿勢・摂食方法の工夫」「食欲の引き出し方」「見守り」「食事の場、人の和、雰囲気を整える」など食環境を整えることはとても大切です。

片手でもすくいやすいように、反りが斜めに深く入っている皿です。麻痺の状態などにより、使いやすい向きに合わせて使います。

A B C
A.舌が思うように動かせず送り込みが困難 な場合は、長めのスプーンを使って少量 ずつ、舌の奥あたりまで入れてあげます。
B.開口困難な場合は、歯ぐきや口の中を傷 つけないように、シリコン素材のやわらか いものを使うとよいでしょう。
C.握力が弱い場合は、軽くて握りやすいも のやスプーンの向きを変えられるものを 選びましょう。
*最近では、皿やコップ、箸、スプーンなど、障害に応じて使いやすいように工夫された商品が多く出回るようになりました。介護ショップの店頭に見当たらなくても、パンフレットなどから選んで取り寄せてもらうこともできます。必要な場合は相談してみましょう。


好物の練りきりやようかんなどの和菓子がのどにつかえそうであれば、本人の目の前でつぶし少量のお湯で溶くと食べやすくなります。ザラザラしたお皿やフォークを使うとつぶしやすくなります。

食べるときはいすに深く腰かけ、腰から上がやや前傾した姿勢が保てるようにすると、首が後ろに反らず「ゴックン」と飲み込みやすくなります。テーブルは肘が90度に曲がるくらいの高さがよく、こぶしが一つ入るくらいの隙間を開けていすの位置を合わせます。足が床につかなければ台を置くと安定します。
車いすの場合も足乗せにしっかり足を置き、下半身が安定するように座り、首が反らないように注意しましょう。不安定な場合はクッションなどを使い、安楽な姿勢が保てるよう体位を安定させる工夫も必要です。
肉や魚は加熱をすることでたんぱく質が縮んで硬くなる性質があります。特に脂肪分の少ないヒレ肉や白身の魚などはパサパサになりやすいので調理に工夫が必要です。
肉は繊維を切るように薄切り(しゃぶ切り)にすると食べやすくなります。酢豚やとんかつなど厚さが欲しいときは薄切り肉を重ねます。鶏肉はかのこに隠し包丁を入れると噛みやすくなります。

酒やしょうが汁、油、すりおろした玉ねぎ・りんご・パインなどに肉を漬け込むとやわらかくなります。
なめらかに仕上げるためにフードプロセッサーやハンドミキサー、やわらかくするために圧力鍋などを利用すると調理時間も短縮できて便利です。
「生もの」を加熱すると、「蒸す」⇒「煮る」⇒「焼く」⇒「揚げる」の順に水分の蒸発が多くなり素材が硬くなるので、調理法によっても素材の選択、切り方、下ごしらえが違ってきます。
●ひき肉は加熱するとパサパサ・ポロポロになりやすいので、ハンバーグや肉だんごを作るときは、豆腐や野菜など水分を含んだものを混ぜ、つなぎに卵やパン粉を加えてよく練ります。油分が少ないときは油を補うと肉が結着せず口当たりよくまとまります。

●骨が付いたままでは食べにくい魚は三枚におろし、身だけを2枚重ねて焼くと食べやすく身もふっくら仕上がります。パサつく魚はあんかけにしたり、煮魚は煮汁にとろみをつけてからめると食べやすくなります。

●野菜は繊維が多いので、包丁の入れ方で食べやすさが変わります。「噛み切りやすさ」「噛みやすい厚さ」「口に運びやすい大きさ」がポイントになります。

●根菜類は回しながら表面積が広くなるように乱切りにすると均等に熱が通りやすく、食べやすいやわらかさになります。

<MEMO>
平成17年4月より、今まで活用していた「栄養所要量」が使われなくなり、個々の状態に合わせた「食事摂取基準量」と表現されます。新たな指標も加わり、エネルギー及び各栄養素の摂取基準が示されています。
