介護保険制度は、2006年4月から「予防」に重点を置いたものに一部改正されます(図1)。「介護予防」の対象となるのは、予防の必要性がある人たちの他、要支援・要介護1に認定されている人も含まれます。これまでの制度では「できないことをサポートするサービス」が提供されがちでしたが、これからは「できるようにするための支援」を市町村が主体となって行い、自宅で自立した生活を送り続けることを目標に展開していくことになります。
介護予防には、「運動機能の向上」(筋力向上、転倒予防)、「栄養改善」、「口腔機能の(食べる機能の)向上」という3つの柱があります。体を動かすためにはエネルギーが必要であり、そのエネルギー源である栄養を補給するためには健康な口が必要です。このように口が健康であることは、全身状態を良好に保つことと深いつながりがあるのです。今回は、健康な口の維持と口の機能を改善するための方法を、菊谷武先生(日本歯科大学歯学部助教授 口腔介護・リハビリセンター センター長)にお伺いします。

「食べる」「呼吸をする」「話をする」など口の果たす役割はとても重要なため、その老化は他の機能に比べて緩やかであるといわれています。しかし、これらがひとたび低下し始めると日常生活に大きな影響を及ぼし、ときには命にかかわることもあります。
まずは口を開けて見てください。図2のような項目が一つでもある人は歯のみがき方を見直したり、口のトレーニングや治療を必要とする場合もあります。

図2のような手入れの行き届いていない口ではご飯もおいしくありません。口の中には様々な細菌がひそんでいますが、食べカスを残したままにしておくと、細菌はどんどん増え続けます。増えた細菌が食べ物や唾液とともに誤って気道へ入り、肺で炎症を起こしてしまう(誤嚥性肺炎)可能性もあります。誤嚥性肺炎を予防するためには口の中の汚れを取り、細菌を退治することです。特に夜、歯みがきをせずに寝ると口の中にいる細菌に一晩中えさ(食べカス)を与えてしまうことになります。寝る前には必ず歯みがきをしましょう。歯みがきはやわらかい歯ブラシを使い、痛くない程度の力で、細かく動かすのがポイントです。入れ歯は寝る前に外してきれいに洗い、ごくやわらかい歯ブラシで歯ぐきや粘膜の掃除をするとよいでしょう。舌が汚れているようであれば、舌の汚れを取る専用のブラシもあるのでそれを使ってやさしく掃除してください。
年をとると様々な機能が低下しますが、口やのどの筋肉も衰えます。「噛む」「飲み込む」といった機能も低下し、食も細くなります。人は栄養が足りなくなると、体にある栄養の貯金(体脂肪や筋肉)を取り崩していきます。すると次第に痩せてきて、体力も病気に対する抵抗力もなくなります。栄養の貯金が十分あれば、風邪のような小さなトラブルも抵抗力で乗り越えられますが、その貯金がないと体力は衰えて寝込んでしまうことも少なくありません。
歯や入れ歯や舌がいつもよりも汚れているときは、口の筋肉の動きが悪くなっているのかも知れません。その場合は、口の清掃に加えて口を動かすためのトレーニング(P.5参照)で口の機能を向上させることが効果的です。口の周りの筋肉が鍛えられると、やわらかいものしか食べられなかった人が普通の食事を食べられるようになるという効果も期待できます。筋肉はエネルギーを消費してくれるので、その分食欲も増し栄養状態もよくなります。つまり、健康な口に改善することで、健康な体を取り戻せる可能性が高くなるのです。
歯みがきはむし歯予防のためだけだと思っている人が多いようですが、口の中に自然に入ってくる風邪やインフルエンザの菌などを退治する効果もあります。また口臭も減ることで、自然と大きな口で笑うようになり人との会話も積極的になります。さらにトレーニングをすることで「要介護度が改善された」「肺炎の発症率が減った」などの事例も報告されています。
しかし、歯みがきとトレーニングだけでは十分とはいえません。「歯が欠けている」「入れ歯が合わない」などが原因で噛み合わせが悪い状態になったままでは体に力も入りません。体に力が入らないと転倒しやすくなり、骨折して寝たきりになる可能性も否定できません。歯科医師や歯科衛生士にしっかりと口の中を診てもらい、適切な治療を受けて健康な口を手に入れ、自立した生活が送れる元気な体を作りましょう。

