介護の現場では、「口から食べる」という言葉が使われています。「口から」という言葉をあえて使わなければならない現状があるからです。食べる機能に障害があると、安全に栄養を補給するために、経管栄養法(胃や腸などに管を通して栄養を補給する方法)などの医療的処置が行われることがあります。こうした方法を必要とする人がいる一方、回復する可能性のある人でさえも「口から食べる」ことを奪われてしまっているケースがあるからです。
昨年10月に、経管栄養法から経口栄養法(口から食べて栄養をとること)に回復させることで、介護保険が適用されるようになりました。リハビリや口腔ケア、調理の工夫といった介護力により、「口から食べる」ことを継続したり、改善できる人が多くいることが明らかになってきたのです。さらに、この4月の介護保険法改正では、介護予防に重点が置かれ、3本柱の一つに「栄養改善」が挙げられています。口から食べられる人でも栄養を十分に補えず低栄養状態になり、体力が低下している人もいるのです。
このように要介護度のレベルに関係なく、「口から食べて栄養をとること」=「心身の健康を維持・向上するための基本」であることが、制度上でもきちんと認識され推進されるようになりました。今回は、食介護という視点から高齢者の栄養・食支援を提唱しておられる手嶋登志子先生(愛知学泉大学教授)に、口から食べることの意義と食介護による支援についてお話を伺います。また、増田邦子先生(特別養護老人ホームしゃんぐりら 管理栄養士)には、低栄養を予防する食事の組み立て方を実践していただきます。この機会に、皆さんも食事をすることの意義をしっかり考えてみましょう。

年をとるとあらゆる面で体の機能が低下してきます。栄養が足りなかったり、偏りがあれば、ますます拍車をかけて体は衰えてしまいます。栄養を十分に補えない原因の一つに、食べること、飲み込むことの障害があります。食事や水分がむせやすくなったり、窒息や誤嚥性肺炎(胃に入るべきものが肺に入って炎症を起こしてしまう)などのリスクが高くなると、介助が楽で、安全に栄養を確保できることから、経管栄養法が選択されることがあります。しかしこの選択は、これまで食事の度に得られてきた「おいしい」「楽しい」などという人間らしい感情さえも奪ってしまいます。
口から食べることは単に栄養を補給するだけでなく、五感(味覚、嗅覚、視覚、聴覚、触覚)を使うことによって脳へ刺激を与え、心身を活性化させます。また、神経や筋肉を使うことで、廃用症候群(使わない機能が衰えていくこと)や障害の重度化などを予防し、全身状態を改善させるという効用もあります。口から食べることは、生きる喜びと楽しみをも味わえる、人として極めて意義のある行為なのです。口から食べることが可能な限り、食介護による万全な支援によって、安全でおいしく食べ続けていただきたいものです。
「食介護」という言葉は「食事を介助する技術」と思われがちですが、高齢者がこれまで過ごしてきた食文化・食習慣などの食環境を十分に理解・把握した上で、人として尊重され、「口からおいしく食べる」ことを通して、よりよい栄養状態で健康を維持・向上し、生活の質を高められるように全人的に支援されるべきです。
食介護の目標は、生活の質を高めることにあります。もし、食べられない人がいたら「なぜ食べられないのか」「何が食べられないのか」「どうすれば食べられるのか」など、その原因を見極めて適切な食事支援を行うことが必要です。「食べる人」「食べ物」「食環境」をよりよい状態にしていきましょう。
高齢者の低栄養をもたらす環境要因には「身体的」「心理・社会的」「社会・経済的」要因があり、これらが複合的に影響します。こうしたことが十分に理解された食介護支援によって、口から食事をすることができれば、心身に栄養が補給され、低栄養になる人も減少し、介護予防にもつながっていくのです。


すべてを介助することが、最良の介護であるとは限りません。なにを介助し、どこを見守るべきなのかを見極めた上で、一人ひとりに合った最善の支援を目指しましょう。
手嶋 登志子 |
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| 熊本女子大学(現、熊本県立大学)卒業。関東学院女子短期大学教授などを経て現在、愛知学泉大学教授。長年にわたり、摂食・嚥下障害のある高齢者、独居高齢者などの栄養や食生活をテーマに研究を続けている。「介護食ハンドブック」「高齢者の食生活と栄養」「介護予防食テキストブック」など著書多数。 | 福岡県出身。中村学園大学家政学部卒業。病院栄養士を経て現在、特別養護老人ホームしゃんぐりらに勤務。後期高齢者の食介護支援のため「口から食べることの大切さ」を研究課題とする。在宅高齢者の食介護支援として企業などとも協力し、介護用食品の開発にもかかわる。 |