
私たちは食事を通して活動するためのエネルギーを補給しています。同時に五感を働かせ、目で楽しみ、鼻を効かせ、口を使って味わっています。加齢による身体機能の衰えは避けられないことですが、症状の改善にも気を配りながら、おいしく味わい続けたいものです。
食事は栄養バランスや盛り付けに加え、よく噛むことも大切です。歯、舌、ほお、のど、顔の筋肉を動かし、よく噛むことで栄養は吸収されやすくなります。噛むことで唾液の分泌も多くなり、食物と混ざりあって飲み込みやすくなることはご存知のとおりです。また、唾液の中には口の中を清潔に保つ、消化機能を助ける、味がよくわかる成分などが含まれていて、体の機能を高める働きをしてくれます。噛むことで得られる「歯ごたえ」「噛みごたえ」は、歯を支えている歯根膜やあごの骨の細胞を刺激し、様々な情報を脳に伝達して脳の働きを活性化させることも、科学的に明らかになってきています。
今回は、口の健康から、食事作り、食環境まで、介護予防に役立つ情報をお届けします。介護予防は生活習慣病の予防、あるいは食育から始まるといっても過言ではありません。
生きていくための基本である「食」は、QOL(生活の質)を維持するために不可欠な要素です。茨城県笠間市では「食が健康の基本、楽しみながら元気に食べよう!」という視点から、歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士が中心となり、レストラン、笠間焼作家、各種団体、個人へと広がり「楽食の会」を結成しました。食材の選択や一手間加えて調理することで、口や体にハンディがあってもなくても、家族と一緒に楽に、楽しく食べられる食事「楽食」の研究を開始。体にハンディのある方でも、やさしさを詰め込んだ一工夫をすれば、見た目もおいしく、食べやすい料理に仕上がります。現在では、「食」を基軸とした食環境、食教育をはじめ、まちづくりに至るまで生活環境全般の構築を目指して活動しています。
「楽食」は、歯の治療や口腔ケアはもちろん、食材の選択、調理の工夫、食べる姿勢、食器具の選択などにも配慮して、咀嚼筋をはじめ体全体を使うことで筋力の維持・低下を予防し、食べられることの喜びから気力を戻し、心の健康にもつなげようとするものです。したがって、「楽食」=「介護食」「治療食」というわけではなく、介護予防食であり、生活習慣病予防食であり、だれが食べてもおいしい「健康志向食」に位置づけしています。
「楽食の会」では、ドクタービーチ氏が提唱する「0の概念」に基づいた「健康志向型の記録方式(SIインデックス)」を介護版に置き換え、これを指標に自分たちの活動によってどの程度健康に近づいたのかを評価しています。「0の概念」とは、医療の必要性がない状態を「0」(ゼロ)、医療の必要性がある場合を「-」(マイナス)として、「0」=「健康」を目指して医療活動そのものが「0」になることを最終目標とするものです。何が必要なのか不必要なのかをその都度考え、その活動が必ず健康の方向を目指す物差しになっています。
事例 Aさんは脳梗塞で倒れ、SIインデックスでは「‐1」、一時は完全に医療に依存する状態でした。ミキサー食を食べていた時期もありましたが、リハビリの成果もあり、現在は「‐0.5」くらいまで回復しました。左手に麻痺が残っていますが、ふちが立ち上がり片手でもすくいやすい食器を使用しているので、自分のペースでゆっくり食べることができています。目標「0」を目指して、日々の暮らしの中で「楽食」も取り入れ、リハビリも継続しています。