介護の基礎知識 <32>

介護情報誌ハナさんVol.32 2008年03月掲載 特集32

水分・食事・排便・運動 〜日々の生活を見直して、健康的な生活を取り戻そう!〜

水分・食事・排便・運動

 

現状を確認して目標を立て、健康的な生活習慣を身につけよう!

チェック表
※日頃の水分・食事・排便の状況が把握できていれば、急性の病気が発生したときの原因がわかりやすく、医師の診断も受けやすい。

 

水分補給を習慣に!

 水は、体内で様々な物質の溶けた「溶液」=「体液」として存在しています。飲水や固形食として補給した水分は体液となり、エネルギーを運搬し、代謝し、老廃物を排泄する役割や、細胞が体内で快適にいられるための環境づくりをしています。

 高齢になると若い頃に比べ、体内に蓄えられる水分量が少なくなり、感覚機能の衰えから、のどの渇きも感じにくくなるので、脱水症に陥りやすい傾向にあります。腎臓の機能も低下してくると、老廃物を排泄するためにより多くの水分が必要になります。このため、高齢になるとトイレの回数が増えるのはごく自然なことで、トイレに行くのが面倒くさいからと水分を控えて尿を出さないと、体内の老廃物を排泄しきれなくなってしまいます。夜間のトイレを心配する人もいますが、昼間の活動量が多ければ水分は体内をしっかり巡り、抑制力も働き、夜中に何回もトイレに行くような心配はなくなります。

 従って高齢者の健康の秘訣は、「たっぷり水分を補給し、トイレに行くこと!」ともいえるでしょう。体内が新鮮な体液で満たされていれば、一つひとつの細胞も快適に働くことができるからです。

脱水症

加齢と共に、細胞の中の体液は減少し、細胞の数も少なくなるので、細胞が維持できる体液は全体的に減少してしまいます。
その上、水分をたっぷりとらないと、細胞の周りの水分も減少して「脱水症」になってしまうのです。

 

 

 体内の水分が不足し「脱水症」になってしまうと、全身に悪影響を与え様々な症状が現れます。脱水が与える全身への悪影響

 1日に必要な水分量は、その人の体型や活動量によって異なります。活動量の少ない高齢者でも1日1,500ml、最低でも1,300mlは補給したいものです。大量に汗をかいたり、発熱したり、下痢・嘔吐をしたときは水分がいつも以上に失われています。数字はあくまでも目安、そのときの体調に合わせてしっかり水分を補給しましょう。

 また、心臓病や腎臓病の人は、水分が臓器に負担をかけてしまう場合もあるので、主治医の指導に従いましょう。特に指導がない場合、とりすぎを心配する必要はありません。水分が不足すると、食べる意欲もなくなってしまいます。

 1,300ml以上の水分を、1日にどのようにして補給すればよいのでしょうか?飲みなれていない人は「えっ、そんなに多く!」と感じるかもしれませんが、習慣になれば意外と簡単に飲めてしまう量です。

飲む時間を決める・・・水分補給のためのタイムスケジュールを作る。
飲む量を決める・・・ポット1本分、ペットボトル1本分など、1日の量を朝から準備しておく。
飲み物の種類を増やす・・・お茶やスポーツドリンクばかりでなく、コーヒーやココア、紅茶、ジュースなど選択の種類を増やす。また、ゼリーや寒天よせなど、食べる水分も取り入れバリエーションを増やす。
飲むきっかけを作る・・・散歩して1杯、運動して1杯など、すすめるタイミングを作り出す。
一緒に飲む・・・「飲んでください!」というよりも、一緒に飲んでいると自然に飲めてしまう。
水分の重要性を説明する・・・意識して水分をとり始め、体調がよくなってくると、自ら「お茶は体にいいですよ」などと他の人にすすめる人もいる。

 

体によく、心にもよい食事を!

 1日に必要な栄養所要量は、その人の体型や活動量によって異なります。活動量の少ない人でも1日1,500kcal、ほぼ寝たきりの人でも1,300kcalは補給したいものです。

 噛む力が弱くなったり、むせやすくなると、やわらかい食事になりがちです。食べやすくするための工夫は必要ですが、一般に水分量が多くなるとカロリーは少なくなってしまいます。できるだけ「常食」を基本に献立が組み立てられるように、歯の治療や口腔リハビリにも力を入れましょう。1日3回の食事だけでは栄養が十分に補えない場合は、おやつの時間にも栄養価の高いものを用意したり、栄養補助食品を利用するなどの対応が必要です。

 食事は栄養バランスや味の問題だけではなく、目の前にある様々な食べ物を選択するという行動から始まり、脳の大半を使用する大変複雑な行為です。自分で意のままに食事をとれないと、味まで変わってしまうという不思議さもあります。食事をする際は、口腔ケアはもちろん、食器や食べるときの姿勢、環境にも配慮しましょう。テーブルを家族や仲間と囲む「会食」は、体にも心にも英気を与え元気の源になることでしょう。

 

排泄しやすい便を作ろう!

 医学的には、3日間排便がない状態を「便秘」といいます。高齢者は不規則な場合もあるので、5日くらいを目安に排便がない場合に便秘対策を考えるとよいでしょう。

 便は食べたものに大きく影響されます。食事の量が少なければ便の量も少なくなり、水分が少なければコロコロになります。反対に、野菜など食物繊維を多く含んだ食事は便の量を増し、十分な水分が加われば軟らかく排便しやすくなります。まず大切なことは、排便しやすい便になるように、水分と食事をしっかりとることです。

 排便を習慣にするには、朝起きて、食事をして、出ても出なくてもトイレに行くなど、1日の生活リズムを取り戻すこと。デイサービスなどを利用して活動量を高め、腸が動きやすい環境を整えることも必要です。下剤は本来の排便リズムを乱し、便秘を慢性化してしまう恐れがあります。下剤の使用は最終手段とし、自然排便を試みましょう。

便秘にならないために

 

生活の中に、秘められている力を引き出そう!座位の効果

 1日3回の食事、トイレ、洗面などは、自然に離床を促すための格好の目的になります。介助して座位をとり、車椅子へ移り、一定時間その姿勢で過ごすことで医学的な危険が生じるような人は、病院で医療の管理下に置くほかはありません。ターミナルケアでよほど全身状態が悪くなければ、在宅や高齢者施設で過ごしている人のほとんどが、介助さえあれば「座位」は可能なはずです。

●ベッドに横向きに腰かけて足を垂らせば、股関節と膝、足首は自然に90度に曲がり、最も手軽で効果的な関節運動訓練になる。
●寝ていることによって圧迫されていた仙骨部もかかとも
開放され、褥瘡の根本的な治療法になり、予防にもなる。
●姿勢を一定に保つために脳の活動が盛んになり、意識がはっきりして覚醒する
血圧、脈拍、呼吸は安定する。
誤嚥のリスクは軽減される。
●排便の際、寝たままよりも起きて腰をかけたほうが肛門は下を向き、腹圧や便の重量も利用できるので排便しやすい

自立支援 長い間寝ていると全身が圧迫され、首の筋肉をはじめ胴体を支える筋肉などが衰え、拘縮(関節が固まって動きにくくなる)が進み、何かをしようという意欲さえも失ってしまいます。まずは、少しずつでも座る時間を増やし、筋肉の力をつけていくことが必要です。目的もなくただ座っているのはつらいもの。食事、トイレ、庭、デイサービス、散歩、旅行と徐々に活動の場を広げていきましょう。

 また、寝ていた人を急に起こすと、起立性低血圧(立ちくらみ)が起こることがありますが、何度が繰り返すうちになれてしまうものです。

 ベッドに腰かける生活から立って歩くようになると、これらの効果はさらに高まります。転倒・骨折を予防するには、激しい運動で筋力をアップするのではなく、普段の生活では眠っている筋肉もくまなく使うように組み立てられた「ラジオ体操」や「健康体操」を行うとよいでしょう。ゆっくりと大きな動きをする「太極拳」は、足腰はもちろん、全身の強化に最適な運動です。トレーニングマシンで行う「パワーリハビリテーション」も、重い負荷をかけず全身の筋肉をやさしく刺激するので、高い効果が期待できます。

 オムツを使用して寝たきりだった人が、シルバーカーや歩行器を補助具に屋内から屋外へ出るようになり、1?2kmも歩けるようになると、オムツが外れ、昼間たっぷり水分を補給しても、尿とりパットを使用する程度で夜間のトイレの心配もなく、ぐっすり眠れるようになったという報告が全国各地から寄せられています。

国際医療福祉大学大学院教授 竹内孝仁

 

竹内孝仁 医学博士

国際医療福祉大学大学院教授。1973年に特別養護老人ホームのリハビリテーション指導にかかわって以来、「介護」を支える理論を打ち立て介護職の養成に努めている。「医療は生活に出会えるか」
「介護基礎学」「ケアマネジメントの職人」など著書多数。


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