たけうち先生の介護講座 事例研究<02>

脱水症で認知症が悪化

 さつきさん(仮名/88歳 女性)は認知症で、幻聴、独語、記憶・見当識障害があり、会話はほとんど一方通行。動脈硬化症、白内障(右目は失明)、難聴がある。座位で畳の上を移動、排泄は完全失禁でおむつ使用。他、ADL(日常動作能力)はすべて介助。
 家族は、長男夫婦と三女。介護は、脳卒中後遺症をもつ嫁が昼間、三女(就労)が夜間を受けもっている。ホームヘルパーが週に2回(3時間ずつ)訪問。

 

ホームヘルパーの記録

8月〇日
  午後、嫁と介護を交替。さつきさんはふとんに正座し、ミッキーマウスのぬいぐるみを抱え、大声で「お母さんはどこですか」と繰り返し、会話にならない。

8月△日
 暑さが続く。昨夜より発熱あり「非常に心配」と三女のメモあり。何度も検温を行い、夕方近くに平熱となる。

8月×日
  さつきさんの食欲はなく、口の中に入れた食べ物をつまみ出す。ヨーグルト、果物だけ食べ、食事はほとんど残す。

9月○日
  午前中より興奮状態が続き、室内を動き回り、手当たり次第にものをつかむ。お膳、電気のコード、ふとんなどをケガをしないように片づける。 常備の安定剤を飲ますが落ち着かず、「家に帰ります」と動き回る。4時過ぎようやくふとんに入る。あと大量の排便があり、便秘していたようだ

9月△日
  さつきさんの米寿の誕生日。三女の料理を全部平らげる。一緒に得意の歌を歌う。

10月○日
  朝一人で玄関に出る。 夏に比べると意識がはっきりすることがあり、「あなた何年生?学校はどこ?優等生でしょう」と、教育熱心で子どもに厳しかった昔の姿を思わせる。

10月△日
  「自分からトイレを知らせ、連れていった」とのメモ。精神状態の安定が続く。

 

十分な水分補給で異常行動を防ぐ

 8〜9月の暑い季節には、独り言を繰り返したり、食欲がなかったさつきさんも、10月に入って気候が穏やかになると、意識がはっきりとし、精神状態も安定してきます。
  見逃せないのは、8月△日の「発熱」です。さつきさんは明らかに脱水症に陥っています。水分が不足し、熱を体外に放出することができず、体温をコントロールできなくなっていたのです。しっかり水分補給することで、汗をかき、呼吸も安定し、平熱に戻りました。
 次に気になるのは、9月〇日の「便秘」です。この場合、便秘そのものが興奮状態を引き起こしています。便秘の原因は様々ですが、水分不足も一つの要因になります。
  10月△日、さつきさんは自らトイレを知らせています。さつきさんは自立しているのです。水分が十分に足りている場合、精神状態は安定し、異常行動もありません。さつきさんの異常行動は、身体的要因によるものだったのです。これは典型的な「脱水症」の例であり、「便秘」が認知症の症状悪化を招いていたといえるでしょう。

 さつきさんのような認知症の場合にかかわらず、一般によく見られることですが、これといった原因もないのにお年寄りの元気がなくなってきたと思ったら、まず脱水症を疑ってみましょう。
 発熱、皮膚の乾燥、尿量の減少などは、脱水症の典型的な症状です。ときには吐き気を訴える人もいます。そのままにしておくと、だんだんうつらうつらし始め、うわ言をいったり、騒いだり、幻覚が出てきたりします。
 こういった基礎知識があれば、「8月△日 発熱」の時点で脱水症を疑うことができたはずです。そして、日頃からしっかりと水分補給をしていれば、このような脱水症状は予防でき、水分不足による認知症の異常行動の誘発も防ぐことができます。
 植物は水なしでは枯れてしまいます。人間も同じで、脱水症は発病後わずか数日で亡くなることさえある怖い病気です。お年寄りの場合、1日最低でも、1300ml、できれば1500mlの水分を補給しましょう。その日の体調や活動状況、気候などによって1500mlとっていても脱水症を起こす場合もあります。数字はあくまでも目安です。大きなコップでたっぷりと水分をとる習慣をつけましょう。

水分たっぷり 水分不足

*たっぷりと水分を補給している植物は元気です。
 夏は冬よりも多くの水分が必要です。



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