梅吉さん(仮名/61歳 男性)は奥さんと二人暮し。数年前に交通事故で頸髄損傷になり、寝たきり。全介助で何をするにも介護者である奥さんが関与。
ベッド、昇降機、車椅子、室内移動用リフトが設置してある。入浴用、トイレ用のシャワーチェアも完備されている。排泄は、2日に1回の大便をする時のみ、ベッドからリフトなどを使いトイレで済ませる。尿は1日2回ほど導尿。本人の外出は、リハビリのための通院のみである。*頸髄は脳に近い首の部分を通る脊髄のことです。脊髄が傷ついてしまうと脳と体の連絡が伝わらなく、個人差はありますが、手や足を動かしたり、痛みや温度等を感じることができなくなってしまいます。
介護者に自由な時間を! 介護負担は全介助で、何をするにも介護者である奥さんが関与しています。これでは介護者の負担が多すぎるので、軽減する必要があります。1回当たりの介護負担が大きいのは入浴です。引き続き回数が多く、反復して大変なのは排泄です。それから食事、洗面、着替えと続きます。
入浴については、ホームヘルパーと共同にすることで、介護負担は半減します。排泄は、病院から「3時間に1回程度導尿」という指示で退院していますが、在宅生活では難しく、1日に2回ぐらいになっています。しかし、毎日膀胱に尿がパンパンに溜まりきっている危険な状態ですから、担当医に相談して、留置カテーテルにしてもらうとよいでしょう。栓を開放すれば全部出てしまうので、残尿が完全に取れます。ただし、膀胱の尿がほとんどオムツに出てしまう場合は、コンドーム型の集尿器が使えます。出た尿を集尿袋に取るようにします。このどちらかをやらないと、介護負担を増やすばかりです。梅吉さんは頸髄損傷なので、腎臓結石や膀胱結石など合併症の不安もあります。訪問看護を導入し、膀胱洗浄と同時に、全身的なチェックをしてもらうとよいでしょう。
何もせずにベッドから天井を眺めるだけの生活を続けていると、下肢の拘縮がどんどんひどくなり、介護負担が増えるばかりです。できるだけ1日の座位時間を増やすことが大切です。食事をしたりテレビを見るときだけでもベッドの横に座ったり、ホームヘルパーに入浴介助を絡めながら、座位の援助をしてもらうとよいでしょう。
障害をもっている人の場合、自分の障害を受容しきれているかどうかが非常に大切です。心理的な構えが出来ていないと、梅吉さんのように、介護者である奥さんにべったりくっついてしまいます。このような人はよほどのことがないと、ショートステイにも行かない、デイサービスにも行かない、奥さんのそばにいたいということが起こり、介護者のストレスを過剰に増やしてしまいます。
まず、本人に障害を受容してもらうか、奥さんと離れた自分固有の生活ができる心理状態にしていく必要があります。一番役立つのは、同じような障害を持った人との関わりです。梅吉さんのような頸髄損傷では頸損友の会、脳卒中の人には地区のリハビリ教室を通した集まりなどがあります。身体状況からどうしても移動の手段がなく、自分からは出向きにくい場合は、パソコンを使ってインターネットで通信してみるのもよいでしょう。障害者仲間とのコミュニケーションもとれますし、パソコンを使うために作業療法士が訓練してくれます。パソコンのキーを操作するためのちょっとした自助具も作ってもらえます。
精神的に奥さんに頼らない自分固有の生活を作っていく過程が、自立生活へのプロセスです。リハビリ教室などでお互いに励まし合い、悩みなどをたっぷり話し合うことで、同病者ならではのつながりもできます。さらに心理的な治療効果も出て来て、本人のストレスも解消されます。このような機会を通して、少しずつ介護者離れをしていくことが大切です。脳卒中、脊髄損傷、リウマチ、パーキンソン病などでも、仲間と触れ合える社会的サービスを大いに利用しましょう。
実際に始めてみると、非常に短期間で、心理的に立ち直っていきます。様々な情報交換ができ、同じ目的に向かって前向きな訓練も行えます。また、何かあってもスタッフが手早く対処してくれるので、安心して通うことができます。
