たけうち先生の介護講座 事例研究<08>

食べられない夫に戸惑う妻

 菊造さん(仮名/73歳、男性)は妻の芳子さん(仮名)と二人暮し。農業をしていたが、8年前に脳梗塞で倒れ右半身に麻痺が残る。その後、認知症の症状がみられたため、芳子さんが勤めを辞めて介護をしながら農業を始める。
  食事は口の中に食物を入れてからいつまでも「モグモグ」していて、なかなか飲み込まない。そのうちに咳き込んだり、痰がからんでむせてしまうなど1時間以上もかかる。絶えず痰がからみ十分な食事ができず、食欲はだんだんと低下してきた。家で過ごす日の水分摂取量は350〜400ml。
 手足の筋力が低下し、生活のあらゆる場面で介助が必要とされている。入浴は週2回のデイサービスで行っている。排泄は尿意・便意ともなく、パンツの着脱から尿パットの交換まですべて芳子さんが介助。物忘れ、徘回などもみられ、認知症の症状も悪化している。
 芳子さんの介護負担は大きく、とくに夜間、咳や痰がひどいときの介助では睡眠不足になる。菊造さんは何もせず、座ったら座ったまま、寝たら寝たままで後ろから芳子さんがかかえたり引っ張ったりということが多く、身体にも負担がかかる。ケアマネジャーから「ホームヘルパーが必要」との話があったが、他人が家に入るよりは、やむを得ないときにショートステイを利用したいと思っている。

 

考え方
 認知症の場合に食物を認知し、噛み、飲み込むなどの一連の行動がとれない人がいます。もちろんこの他に嚥下機能そのものに問題がある場合もあります。ここでは、嚥下機能に異常があると想定して次のような工夫をしてみましょう。 

 

飲み込む過程食べやすい食事の形態を考えよう

 口の中でいつまでも「モグモグ」してなかなか飲み込めないのは、嚥下(飲み込むこと)機能に問題があると考えられます。菊造さんは食事中に咳き込んだり、むせています。 食道に入るべき食物が肺に入り肺炎を起こす(誤嚥性肺炎)危険もあるので、きちんと診察を受ける必要があります。嚥下に詳しい医師か看護婦、歯科衛生士などに来てもらい、食事の形態と食べさせ方、口腔ケアを指導してもらうとよいでしょう。
  一度飲み込んだと思っていても、食物が軟口蓋に残っている場合もあります。食べた後の濁音それは「アー」と言わせてみれば濁った音がすることで判断できます。そのときは「もう1回グッと飲み込んでごらん」といって、喉をきれいにしてから次の食物を入れるとむせにくくなります。

 水分は1日に1,300ml〜1,500mlは必要です。サラリとした水やお茶はむせやすいので、嚥下補助食品でトロミをつけたり、ゼリー飲料などで代用しましょう。水分が足りなくなると脱水症になったり、認知症状の悪化原因にもなります。 また、寝たきりの高齢者でも1日1,300kcal程度は栄養を確保しなくてはいけません。栄養、水分ともに必要量がとれない場合は胃瘻(管を胃まで通して食事を流す)という方法もあります。胃瘻そのものは決して悪いものではなくいつでも抜けるので、緊急避難的な措置でよいのです。胃瘻があるからといって、口から食べられないわけではありません。胃瘻で主カロリーや水分を補給しながら、なおかつ口でおいしいもの、食べたいものを食べていくようにすれば健康状態もぐっとよくなるし、認知症の症状も落ち着く可能性が十分にあります。結果として、口から十分食べられるようになったら胃瘻はやめればよいのです。

 

一人で抱え込まないで!

 認知症の症状が悪化している菊造さんを一人でみている芳子さんですが、このままでは芳子さんが倒れないとも限りません。ケアマネジャーが提案したように、ホームヘルパーを導入すると楽になるでしょう。この場合なら、食事や口腔のことを含めて歯科衛生士に指導してもらいながら、朝食の介助を中心に水分補給や体を起こすなど、デイサービスに行く前の準備もできる多機能のホームヘルパーを設定してもらいます。昼間は食事介助と水分補給、主にその2つです。それからデイサービスから帰ってきたときの移動介助も入れるとよいでしょう。
 しかし、介護者自身がホームヘルパーを受け入れられないならば、しっかりと健康管理をしてくれる医師や看護婦を紹介してもらいましょうホームヘルプサービスケアマネジャーなど信頼できる介護のプロに相談すれば、介護者と要介護者にとってよい方法を考えてくれるでしょう。菊造さんのように在宅での健康管理がなされていないと、認知症の症状も悪化して体も動かなくなり、ますます介護負担が増えるばかりです。
  介護は生活の一部です。大切なのは、手を抜けるところは手を抜き、手をかけなければならないところはしっかり手をかけることです。家族にしかできないことをするためにも、肩の力を抜いて、介護サービスをもっと気軽に利用するとよいでしょう。  



Copyright by PureCommunications,Inc. 1999〜2008