たけうち先生の介護講座 事例研究<10>

本人の力を取り戻そう

 竹二さん(仮名/男性/100歳)は農業で生計を立てていたが、6年前に奥さんを亡くしてから、長男夫婦(息子(72歳)、嫁(71歳))と同居を始める。
 97歳のときに転倒して右足を骨折するまでは老人車を押して畑に出ており、骨折が治癒してからは杖を使用して家の中で生活していた。その後トイレに行くのもおぼつかなくなり、ポータブルトイレを使用。昨年、排泄感覚がはっきりしなくなりおむつを使い始める。現在は寝たきりだが、寝返りなどはできる。
 長男夫婦は竹二さんにショートステイを利用してもらうことで介護から解放される時間もあり、介護生活にも慣れてきているが、起居・移動には負担を感じ腰痛を訴えている。また、本人が転倒して骨折したことがあるので骨折に対する不安もある。

 

ケアマネジャーの立てたサービス計画

月・水・金の10時から16時に通所サービス。
ホームヘルパー派遣は火・木・土。
7時から8時までの間にトイレ介助、洗面介助、口腔ケア、身の回りの世話など。
14時から15時の間に身体清拭、トイレ介助、車椅子による散歩または座位保持、散歩後の水分等の摂取。
月に1回ショートステイを利用。

 

座ることで見えてくる希望の光頚部筋と体幹筋の弱化

  長時間寝ていると、年齢に関係なく筋力低下が確実に起こってきます。長い間寝ていた人を起こすと、首がぐにゃぐにゃになっているのは、寝ているために起こる頸部筋(首の筋肉)の弱化によるものです。起こして首に不安定な感じを受け、介護者も不安になって再び寝かせてしまうと、さらに筋力低下が進んでしまいます。首を支えているのは主に首の筋肉で、胴体を支えているのは胴体(体幹)の筋肉です(図)。寝かせておくと筋肉は低下してしまうので、こうしたことを防ぐためにも座ることが大切なのです。
 座ることにはいろいろな利点があります。覚醒(目が覚めてくる)、関節拘縮(関節が固まって動かなくなってしまう)の予防筋力向上、血圧の低下、脈拍・呼吸の安定全量排泄をもたらす、誤嚥の予防褥瘡の回復、なによりも動きたいという意欲が沸いてきます。
 座らせても起立性低血圧(立ち上がったときに起こる目まい)などの現象が起こらなければ、外に連れ出してみます。寝ているときは天井しか見えなかった景色も、座位をとることによって窓の外の景色を見ることができたり、車椅子で外に出られるようになるのです。それができるかどうかの確認時間は5〜10分です。それ以上長くなると、腰が痛いとか頭が痛いなどといい始める人もいますが、これは座位が体に影響しているのではなく、こういう姿勢でいるのは退屈だというサインです。
 長く座らせておくためには目的が必要です。例えば「今日は友達が遊びに来てくれるから、ベッドから出て会いに行こうね」とか、「今日は誕生会だから食堂に行ってみんなで一緒にごちそうをいただきましょうね」などの行動目標を作るとよいでしょう。「寝てばかりいないで起きなさい」とせき立てたり、目標のないまま起こしてみるだけでは成功しないものです。
 しかし、座位をとらせることは介護者の負担にもなります。例えば体を起こしてあげるときに一番腰を痛めやすいのは、寝ている位置から起こすときです。電動ベッドを使用することは、座らせるまでの角度やその間の負担を取り除き、楽になる方法です。座らせてしまえば引き起こすのは比較的簡単で、介護者の腰に負担をかけずに済みます。さらに、電動ベッドに移動用のバーが付いていると、それにつかまって体を引き起こすことができるので、寝たきりだった竹二さんも自分の力で起き上がれる可能性がでてきます。起き上がることができるとポータブルトイレまでの移動も楽になります。介護者の負担を増やす前に、福祉用具などの機器を使って省力化を図ることも必要です。福祉用具についてはレンタルなどもあるのでケアマネジャーに相談するとよいでしょう。

 

サービスの選択肢はいろいろある

 竹二さんのサービス計画では、ホームヘルパーを週に3回、デイサービス以外の日に入れることになっています。しかし、起居や移動は毎日のことです。とくにデイサービスなどに出かける前は何かと忙しく、迎えに来てもらっても家から外に出るまでの移動に負担の軽減を感じなかったため、家族はもう一度ケアマネジャーと話し合うことにしました。 ホームヘルパーの派遣に関して、1.ホームヘルパーに毎日入ってもらう、2.デイサービスに行く日に入ってもらう、3.デイサービスに行かない日に入ってもらう。この3つの対策が考えられ、当初ケアマネジャーは3.の提案のみをしましたが、話し合いをするうちに1.2.の案も出てきたのです。
 また、家の中では歩いていた竹二さんですが、寝かせたままにしてしまったため下肢筋力が落ちてしまい、もう一度ケアの在り方を検討する必要が出てきました。自立を高めていこう、重度化予防をしようとするならば、デイサービス(日常生活上のケア、リハビリテーションやレクリエーションなどを併せて実施するサービス)よりもデイケア(医師、理学療法士、作業療法士などが配置されており、医療的なリハビリテーションのほか、デイサービスと同じく日常生活のケアやレクリエーションなどのサービスがある)につなげて下肢の筋力をアップしていくという選択もあります。それがおむつ外しにもつながり、介護負担を減らすことにもつながります。
 ケアマネジャーは地域の中で利用できるサービスを把握しいくつもの引出しを持っています。提案されたサービス計画では満足できないのであれば、他に方法がないのか尋ねてみましょう。ケアマネジャーと話し合うことはとても大切ですし、身体の状態がいつも同じとは限りません。ケアプランはその時々の状況に応じて見直す必要があります。身体機能の低下と共に少しずつサービスを増やしていくのではなく、自立に向け受けられるだけのサービスをすべて受けることから始め、不必要になったサービスを外していけばよいのです。



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