たけうち先生の介護講座 事例研究<11>

残された機能で自立を目指す

 咲子さん(56歳/女性/仮名)は夫と二人暮し。3年前にくも膜下出血の発作で意識不明となり、手術後、同病院の療養棟に入院。左半身に麻痺がある。夫は在宅で介護したいと思っていたが、会社勤めで寝たきりの咲子さんを見られないため、退院後は特別養護老人ホームに入所。この施設では残存機能の活用による自立を促し、昼間は活動し夜は眠るといったメリハリのある生活リズムを習慣化・確立することを目標に介護に取り組んだ。

 

生活のすべてがリハビリに

 食事はベッドを起こして、滑らないような食器(図1)を使うなど食べやすい環境を整えることで、自力でとれるようになりました。自然排便はありませんでしたが、朝食後にポータブルトイレに移動させることを試みると、数日後には座った姿勢で腹圧をかけて自分で排便できるようになりました。座位の能力が次第に戻ってきたので、ベッドの縁に座れる(図2)ようになり、寝たままだった入浴も座ってできるようになりました。筋力も低下していたので移動するのも困難でしたが、ベッドサイドに移動バーを設置し移乗介助をすると、1ヵ月後には麻痺していない側の筋力が戻り、立っているときの安定感が出てきました。

 食事もみんなと一緒の場所で食べられるようになり、車いすでの散歩や人との触れ合い、会話による交流を図ることで、身なりを気にするようになり着替えの習慣も出てきました。座位を心がけ、食事1時間×3回、水分摂取1時間×2回の合計5時間、朝食後のラジオ体操参加の30分、車いすでの館内の散歩が午前と午後の30分ずつで平均して1日6時間半の離床時間が確立できるようになりました。

 咲子さんは施設に入ってきたときと比べると自分でできることがずいぶん多くなりました。もし、重度の障害があるからといってすべてを介助していたら、筋肉や関節は動かなくなり、臓器の機能は低下し、床ずれや肺炎を起こしやすくなるなどの弊害を起こし、機能の低下はさらに加速されていたことでしょう。しかし、たとえ寝たきり状態の人でも、問題を一つひとつ解決していくことで、自立度アップの可能性は大いにあることを咲子さんは実証してくれました。 生活行為の全てはリハビリにつながります。どんな状況でもあきらめず、理学療法士や作業療法士、医師や看護師、介護スタッフなどに相談し、いろいろな方法を見つけてその人なりの生活を取り戻しましょう。  

介護食器、スプーン、箸類

麻痺の人の座るコツ

 

家に帰ろう!

  スタッフと本人の努力で咲子さんのADL(日常生活動作)はかなり向上してきました。夫も在宅での介護を希望していますが、家に帰るためにはたくさんの準備が必要です。住宅改造はもちろん、家族の役割も見直さなくてはなりません。咲子さんが家に帰ってすぐ直面する問題は、朝起きた後の排泄の世話、食事の用意などのモーニングケアを夫が仕事に出かける前にできるかどうかということです。
 咲子さんには離れたところに2人の小さな子供を持つ娘がいますが、早朝の世話ができる状態ではありません。そうなると巡回型の早朝ホームヘルパーを使うのが一番よいでしょう。日中はデイケアで社会とのつながりを持ちながら手足の機能の維持・回復のためにリハビリをし、食事は配食サービスや家事援助のホームヘルパーを利用するなど、最初は夫の負担が少しでも軽くなるように、できるだけ多くのサービスを受け、いらなくなったサービスは外していくという方法をとることで、在宅介護の可能性が広がります。



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