エンジニアとして仕事一筋だったコノミさん(72歳)は、定年を迎えた後、62歳でテニスやゴルフを始め奥さんと共に穏やかな生活を送っていた。ところが、67歳でくも膜下出血を発症し大学病院に入院、話もできず全くの寝たきりとなった。68歳で霞ヶ関南病院(介護レポート参照)に転院し、8ヶ月の入院生活の後、要介護5で退院。
退院直後は日常生活のほとんどに介助が必要。2〜3mなら歩けるが、家の中では車いすを使用。訪問リハビリと外来リハビリを併用しパワーリハビリテーションを実施、早い時期から屋外歩行が可能になる。現在は自由に外出できるようになり楽しい時間を過ごしている。
コノミさんには病気で倒れてからしばらくの間の記憶が全くないそうです。記憶がつながり始めたのは倒れてから1年後、病後のリハビリに力を入れている霞ヶ関南病院に入り、そこで子供が言葉を覚えるときのように絵カードを見せられ、「馬」と答えるなどのリハビリ訓練での過程でした。最初は声を出すことも、口の開閉もままならずもどかしい思いをしましたが、頭の中で「記憶」と「単語」が結びついてくると、脳の働きが刺激されたのかおもしろいように言葉が出てくるようになったそうです。
最初は手で豆をつかんでいた訓練も、箸で一つ二つとつかめるようになりました。体が次第に動くようになると、気持も自然に前向きになり、「リハビリもどうせやるなら楽しく!」と思うようになったそうです。例えば、お手玉を投げるにしてもただ投げるのではなく、一つの缶に10回投げていくつ入るのか目標を作る。階段を昇る訓練では、昇った階段をそのまま後ろ向きで降りてみるなど、自分なりの楽しみを見つけていきました。
この頃、「パワーリハビリテーション」という画期的なリハビリテーションの手法が研究されはじめ、モデル事業として霞ヶ関南病院にも新たなトレーニングマシンが入りました。パワーリハビリテーションとは、動けない人や動く能力の低い人を活発に動けるようにしようとするもので、使っていない筋肉や神経を目覚めさせることを目的としています。
健康な人は普通のフィットネスクラブで何の問題もないのですが、体力の低下している高齢者に負荷の重すぎるマシンを使わせると、筋を痛めたり圧迫骨折を起こす原因にもなります。パワーリハビリテーションでは寝たきりの虚弱な高齢者でも安全に使え、負荷が軽く微調整の効くトレーニングマシンを使います。個人の状態に適した無理のない負荷をかけてリハビリを続けることで体は軽くなり、背筋がシャンとしたり、キビキビと動けるなど見るからに様子が変わり、「トレーニングをやったらよくなる」と自己の認識も変化するなどの成果が出ています。
マシンを使う利点は数値で体力を確認できることにもあります。マシンを使い慣れてくるとプログラムされた数値を自分で設定することもでき、「今日は5キロできた、次の目標は7.5キロノ」と意欲も湧いてきます。 年をとると速く歩けない、動作が鈍くなった、つまずきやすくなった、転びやすくなったなど、滑らかで素早い動作ができなくなることが多くあります。これはほとんどが老化によるものです。体が動きづらく、疲れやすくなり、行動がだんだん縮小していくなどの体力の低下も老化現象の一種です。リハビリで機能が回復し退院しても、何年か経つとだんだん動けなくなってしまうのも老化です。このような老化による要介護化を防ぐことにもパワーリハビリテーションは大きな効果が期待できるのです。
パワーリハビリテーションを行うときに大切なのは「筋力強化ではない」ということで、使っていない筋肉や神経を動かすことがトレーニングの目的です。このため負荷は軽いレベルで十分となり、心臓や血圧に異常のある高齢者にも安全なものになっています。一時は要介護5であったコノミさんがそのまま家で介護されていたら、より重度の寝たきりになっていたかもしれません。それが今は何一つ不自由することなく楽しんでいる姿を見れば、パワーリハビリテーションの効果の程が理解できると思います。
家でも車いす用に設置したスロープを使って歩く練習をしていたコノミさんは、次第に近所の公園へ散歩に出かけられるようになりました。散歩の距離がどんどん広がると、旅行に行きたいと思うようになり、まずは日帰りで、次は1泊でと奥さんと一緒に温泉旅行も楽しむようになりました。室内でテニスラケットを握れるようになると、屋外でもチャレンジしたくなります。ゴルフクラブを持ち出すと、ボールを飛ばしに打ちっぱなしにも行きたくなります。こうして次々と目標に向けて前進するうちに、訪問リハビリも外来リハビリも無事に卒業することができました。
コノミさんは現在、霞ヶ関南病院に新設された「SKIPトレーニングセンター」に通いながら、テニスやゴルフ、旅行に音楽と趣味を増やし、「してもらっていたリハビリ」から「するリハビリ」へ、自立することの快適さを再確認しながら自らの意思で生活の幅を広げています。
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四点杖を使用して介助歩行が可能になった頃 |
現在のトレーニング風景 |
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