たけうち先生の介護講座 事例研究<13>

夏の肺炎を防ぐ

 葉子さん(女性/73歳/仮名)は一人暮らし。夏に肺炎にかかり3週間入院。退院後自宅に戻るが、体力低下のため家事などが困難になり介護保険を申請。「要支援」の認定を受ける。
 ケアマネジャーは、週3回のホームヘルパー派遣と週2回の配食サービスでケアプランを立てる。ヘルパーは買い物、調理、洗濯などの家事サービスを行う。半年後、葉子さんは「要介護2」と再認定され、一日中家のソファーに座ってぼんやりするようになった。

 

本当の自立支援を

 葉子さんが「要支援」から「要介護2」になってしまった原因はどこにあるのでしょうか。ヘルパーが食材を買って訪問し、調理や後片付けから掃除や洗濯まで済ませ、さらに配食サービスが行われると、葉子さんの外出理由の大半を占める買い出しの必要性が極端に少なくなり、家に閉じこもりがちになります。さらに家事のために動くことも少なくなり、状態が重度化していくのは目に見えています。葉子さんが体力を取り戻し、自立するためには「すべてをしてくれるサービス」ではなく、「葉子さんを支援するサービス」が必要なのです。
 例えば、ヘルパーには買い物に付き添ってもらい、食べたいと思ったものを自分で買うためのサポートをしてもらいます。こうすることで空腹感も生まれ、食べたいという意欲もわいてくるのです。また、台所に少し高めの椅子を用意して腰かけながら作業をしたり、調理器具も軽いものに替えてみるなど環境を整えることで、できるようになることもたくさん生まれるはずです。

  孤独は人から意欲を奪います。葉子さんのように一人暮らしの場合、体力や意欲を回復させるためにも家に閉じこもらないよう、1日に1回は外に出ることが大切です。しかし「要支援」で使えるサービスの量は決まっているので、通所サービスを毎日受けることはできません。そのような場合は体力が少し回復してきたら、地元の老人会や趣味を活かしたサークルなどに参加するのもよいでしょう。

 

口腔ケアと水分補給で肺炎を防ごう

 もう一つケアプランで見落されている重大なポイントは「高齢者が夏に肺炎にかかる」ということです。仮にこのケアプランで1年を過ごしたとしたら、葉子さんは再び肺炎にかかり入院するかもしれません。なぜなら、高齢者が夏に肺炎にかかるのは、口の中の菌が肺に入ってしまうことと脱水が主な原因だからです。
  しかし、このケアプランには口の中を清潔に保つための「口腔ケア」が組み込まれていません。普通、唾液は食道に送られます。もし誤って気管に入った(誤嚥)としてもむせや咳で外に出そうとします。しかし、反射の鈍くなった高齢者の場合には、むせや咳が起こらず本人も気付かないうちに、唾液が気管から肺に入ってしまうことがあります。これは特に就寝中や寝たきりの人など体をあお向けにした状態のときに起こりやすいものです。

  唾液には自浄作用があり、口の中を洗い流して清潔に保つ役割がありますが、高齢者は唾液腺の分泌も衰えてくるため口の中が乾燥しやすくなっています。摂り入れる水分が足りない(脱水)と体の水分喪失を防ぐため唾液がさらに出にくくなります。唾液が少なくなると口の中を洗い流して清潔に保つことができなくなり、細菌が繁殖しやすくなります。ここで増えた細菌が、就寝中などに唾液とともに肺に入り肺炎にかかるのです。
  このような肺炎を防ぐためにはしっかりとした口腔ケアで口の中の細菌をできるだけなくし、脱水予防に1日1,300ml〜1,500ml以上の水分補給を心がけて座位の時間を増やすことです。口腔ケアは定期的に歯科医、歯科衛生士にチェックと指導をしてもらうというケアプランに変更することで、夏の肺炎に再びかかることもなくなるでしょう。

唾液と細菌



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