たけうち先生の介護講座 事例研究<14>

周囲の受け入れと体調管理で認知症の症状を緩和

 一人暮らしの桃子さん(女性 / 74 歳 / 仮名)は 2 年前から必要のない多額の現金を引き出したり、免許証を紛失したままで運転したり、役所で印鑑証明の申請を繰り返すなどの行動が見られるようになり、近所からうとまれるようになった。ガスコンロを消し忘れてぼやを出したこともあり、不安を感じる大家さんから「出て行って欲しい」といわれているが、桃子さんも遠方に住んでいる息子夫婦も現状のままを維持したいと思っている。
 桃子さんはよく出かけて買い物もするが、調理は苦手で菓子パンを主食とし三食きちんと食べていない。体重も減り顔色も悪い。水分補給は 1 日 200 〜 300ml 程度。アルツハイマー型認知症と診断され要支援と認定。 ADL(日常生活動作)は自立。

 

見守りネットワークをつくる

 桃子さんのような一人暮らしのお年寄りに、近所の住民は常に「火の不始末から火事でも出すのではないか」「事故でも起こすのではないか」という不安=ストレスを感じています。また、以前から顔なじみであった人たちは、「何とかしてあげたい」と思う反面、そうすることで「自分が責任をもたされるのではないか」という不安も抱いているのです。このような不安から、いつも監視されているような雰囲気を桃子さんが感じ、「あなたは私をばかにしている」「家族が自分を変だといいふらしている」などと近所の人にいっていたそうです。近所の人たちのストレスは地域に緊張感をもたらし、その緊張感を本人が感じとることで認知症の症状をさらに悪化させる可能性もあります。大切なのはその人を受け入れる周囲の雰囲気や環境づくりです。
  まず初めに取りかかりたいのは、一番心配な火事に対する安全対策です。ケアマネジャーはコンロやストーブを電気に替え、感知器を備えることで火事に対する問題を解決し、危険発生時の緊急通報器も設置しました。また、近所には家族と共に出向き「一人暮らしの桃子さんの責任者は私です。何かあったら私に連絡を」と責任の所在を明確にし、今行っているサービスやその目的などを近所の人たちに伝えて心配や不安を軽くし協力を仰ぎました。
  近所の人たちは「何か手助けはしたいが責任はもてない」と思っています。ですから、そこに責任者が現れると「協力ぐらいなら・・・」と援助してくれることが多いのです。このような協力者が 2 人でも 3 人でも現れたら立派な「見守りネットワーク」になります。桃子さんの場合は 10 軒に声をかけて、大家さんを含めて 7 軒が援助を申し出てくれました。 認知症の症状は「孤独」によって悪化することがよくあります。伴侶に先立たれたり、子供が遠方にいて一緒に暮らせない人は大勢いますが、特に認知症の症状のある一人暮らしの場合、顔なじみの人たちの声かけや近所の見守りがとても大切な役割を果たすことになるのです。遠方に住んでいる家族でもケアマネジャーと一緒に近所を回って、周囲の暖かい目がいつも注がれる環境を整えましょう。

 

しっかり食べて水分補給も忘れずに!

お茶の時間を楽しむ  1 日に必要なカロリーは ADL (日常生活動作)がほぼ自立している人で 1,500kcal 、寝たきりの人でも 1,300kcal といわれています。しかし、菓子パンが主食で三食きちんと食べていない桃子さんは、カロリー不足に加え栄養のバランスもよくない状態にあります。水分補給は 1 日 1,300 〜 1,500ml 以上必要(注 1 )ですが、桃子さんは 1 日 200 〜 300ml 程度なので慢性的な脱水状態といえるでしょう。
  ケアマネジャーは桃子さんが三食きちんととれるように、ヘルパーを派遣して食事の用意をしたり、配食サービスを利用することで栄養状態を管理しました。また、水分補給はヘルパーが「さあ、お茶にしましょう」と声をかけるなど、飲む回数を増やすようにしました。こうすることで健康状態も回復し、近所の見守りネットワークの中で穏やかに過ごすうちに無免許運転をしたり、役所に申請を繰り返すなどの行動はなくなりました。
  桃子さんのように脱水や便秘などの身体的不調で認知症が進んだようにみえることがありますが、日々の生活でかなり改善できるのです。お年寄りの一人暮らしは食事を簡単に済ませてしまう人が多いので、しっかり食べてたっぷりの水分を補給するように周りの人たちが気遣ってあげることが大切です。

注1)心臓病や腎臓病などの病気で水分制限のある人は、かかりつけ医の指示に従ってください。



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