たけうち先生の介護講座 事例研究<17>

床ずれは治る

 孝さん( 72歳/男性/仮名)は妻と二人暮し。両手足が 麻痺しており寝たきり。両足は棒状になり固まっている。1年前に心筋梗塞で入院。退院して以来、仙骨(骨盤の中央にあり、背骨の一番下の骨)部に皮膚がはがれるくらいの床ずれを繰り返す。食事や排泄はベッド上で全介助。孝さんは自分の世話を他人にしてもらうのが嫌で一切のサービスを拒否。妻一人で介護している。周囲からの情報を聞きつけ、ケアマネジャーが様子を見に行く。

 

正しい知識と介護サービスで床ずれを治す

 ケアマネジャーは孝さん夫婦との信頼関係を作るために何度も家に足を運び、介護サービスを受け入れてもらうための糸口を探しました。妻が清拭とドライシャンプーを毎日していたため「お湯で洗髪しませんか」と尋ねると、不安な表情を見せながらも承諾してくれたので、洗髪を手伝うことから始めました。何回か洗髪をするうちに孝さんから「次もお願いします」と声がかかるようになり、「洗髪だけじゃなくて、お風呂に入るともっと気持ちいいわよ」と勧めました。しかし、心臓の持病を気にしており他人との交流にも慣れていないので、医師や看護師がいるデイケアの施設から迎えに来てもらい、人のいない午前中に入浴してもらうことにしました。久しぶりに湯船につかった孝さんは入浴の気持ちよさを実感し、安心感を得られたのか、様々な専門家の手を借りることを受け入れるようになりました。
 最初のケアプランはホームヘルパーが毎日入り、起床時と就寝時に排泄や身支度・口腔ケアなどを介助、週に 1回デイケアで入浴、そして訪問看護による床ずれの処置(治療)とPT(理学療法士)による手足のリハビリで組み立て、アセスメントをしながら見直していきました。

 床ずれを治すのに大切なのは、「適切な処置(治療)」、「十分な栄養」、そして「除圧」 です。一日中寝たきりで過ごすと食欲もなくなり、床ずれはなかなか治りません。反対に、座位(椅子などに座った状態)をとり仙骨部など骨の出ている所に圧力が加わることを防げれば、床ずれは次第に治っていきます。座位はお尻と足の裏に圧力が加わりますが、お尻は厚い筋肉と脂肪で覆われており、足の裏は脂肪がつまっているので床ずれになることはほとんどないのです(図1)。ですから少しでも長い時間座位をとることが、床ずれになりやすい部分の除圧につながるわけです。

 ある日、妻・ケアマネジャー・ホームヘルパーの 3人がかりで孝さんをリクライニング式の車椅子に移し、茶の間へ連れて行こうとしましたが、両手足が麻痺した孝さんを車椅子に移動させるのは大変な作業でした。そこで介護力軽減のため移動用のリフトを借りることになりました。リフトを使えるようになったことで車椅子に移る機会も増え、行動範囲が広がり孝さんも喜んでくれました。初めは足が棒状になっていて膝が曲がらず、足と足が触れると気持ち悪いというので、足の間に枕を置いていましたが、車椅子の時間が増えるにつれ膝もだいぶ曲がるようになりました。 手足(特に下肢)が硬く拘縮していると、もう治らないのではないかとあきらめがちですが、車椅子を使うようになれば姿勢と重力の力で次第に改善してくるものだということも頭に入れておきましょう。
床ずれのできやすいところ孝さんは車椅子に座り茶の間へ移動して食事をしたり、お茶を飲んだり、散歩を楽しんだりと、自然に座位の時間が長くなったことで、食欲も増して夜中もぐっすりと眠れるようになりました。活動意欲もわいてデイケアやリハビリにも進んで行くようになりました。 また、最初の頃は座ったときに目まい(起立性低血圧)を起こしていましたが、座位に慣れるにつれてそれも起こらなくなりました。 半年後、孝さんの床ずれはほぼ完治してサービス提供量も減り、余裕が持てるようになったことで妻の手料理も品数が増え栄養もしっかり摂れるようになりました。

 床ずれの予防には正しい知識を持ち、それを実践できる人材が必要です。家族だけですべてを抱え込まず、わからないことは遠慮せずに医師や介護スタッフにどんどん相談して、より質の高い介護ができるようなケアプラン作りをしてもらいましょう。



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