たけうち先生の介護講座 事例研究<18>

水分補給で体調を管理

 さゆりさん(89歳/女性/仮名)は食堂を経営している娘と同居。1年前に転倒して以来、寝たきりになる。痰がからむことが多く、発熱することもある。娘は「食堂が忙しく介護との両立が難しい」とケアマネジャーに相談する。

 

発熱の原因は水分不足

 特に原因が見当らないのにお年寄りが「発熱」するようであれば、水分が不足していることを疑ってみましょう。普段より皮膚が乾燥していたり、尿量の減少が見られる場合は「脱水症」を起こしています。このような変化に気付くかどうかで、その後の体調は大きく左右されるので十分な注意が必要です。
 年をとると体内の水分量が減少するのに加え腎臓の機能も低下し、体の中の老廃物を尿として出すときの濃縮力が下がってきます。ですから同じ量の老廃物を排泄するためには、若者よりも多くの水分(尿)が必要になります。このように高齢になると水分を失いがちですが、のどの渇きも感じにくくなり自分で飲もうとしなくなるので、周りの人たちが意識して水分を摂らせるように心がけたいものです。
 さゆりさんは「痰がからむ」ことが多いようですが、このことも水分と関係していることを知っておきましょう。体内の水分量が少なければ痰は粘度が高くなり、のどにへばりつきやすくなります。私たちが吸い込んでいる空気の中にはたくさんのほこりや細菌が含まれていて、痰はそれらをくるみ込み、気管から食道を通って胃の中へと流れていきます。しかし、水分が不足して痰がからんだまま吐き出すこともできなければ、誤って肺に流れ込み細菌が繁殖して肺炎を起こす可能性も出てくるのです。
 私たちの体は、食事で摂る水分とお茶などの飲み物として摂る水分を合わせて1日に2,100ml〜2,500ml以上必要としています。食事で摂る水分(およそ1,000ml)は、はかりにくいので、飲み物で摂る水分だけで考えると、1日に最低でも1,300ml〜1,500ml以上摂ったほうがよいのです。体の中では常に大量の水分が使われ排出されているので、必要な水分をしっかり追加して脱水症を予防しましょう。ただし、心臓病、腎臓病の人は水分が負担になってしまうことがあるので、主治医の指示に従ってください。

 

寝たきりは卒業しよう

 1年間、ベッドの上で横たわっていたさゆりさんの体力は徐々に衰え、表情も乏しくなりました。娘は「もう89歳だから無理をさせず、できる限りのことをしてあげよう」と一人で介護をしていましたが、負担は増えるばかりで仕事との両立が難しくなってきました。そこで、少しの時間でもホームヘルパーに来てもらい、自分の代わりをしてもらえないかとケアマネジャーに相談したのです。
 ケアマネジャーはホームヘルプサービスを入れるのではなく、さゆりさんの生活にリズムを持たせるため、デイサービスセンターに通うことを提案しました。娘は「外に出るのは無理ではないか」と心配しましたが、「さゆりさんはきっと起きられるようになります。彼女の笑顔を取り戻してあげましょう!」とケアマネジャーにいわれ、とりあえず試してみることにしました。「発熱の原因は水分が足りないからだと思います。水分をしっかり摂れば痰のからみも楽になりますよ。」ともアドバイスされ、水分を摂ることも心掛けるようになりました。
 さゆりさんが通うことになったデイサービスセンターでは、毎朝一人ひとりにお茶を出します。ここはサロン風になっていて緑茶紅茶コーヒー冷たい麦茶と好きなものを選べます。午前中は全員で輪になり体操をするのが日課で、麻痺のある人も車椅子の人も自分のペースで体を動かし、体操の合間にはスポーツドリンクでのどを潤します。昼食時のお茶はもちろん、午後のおやつにはお茶と一緒に、フルーツ味、ミルク味、小豆味など数種類の寒天ゼリーが日替わりで用意されます。おやつの寒天には食物繊維が豊富に含まれていて、ミルクやジュースなどの水分で溶かして固めるため水分補給にもなります。お年寄りは脱水症を起こしやすく、便秘にもなりやすいことから、その対策として水分と食物繊維の補給にこだわっているセンターなのです。昼食のメニューにはおいしくて食べやすいように調理された食物繊維たっぷりのおかずも用意され、センターを訪れる人たちの楽しみの一つになっています。
 デイサービスセンターにはさゆりさんの顔色を見ながら、最初は試しに1回、次の週は2回と回数を増やしていき、今では月曜〜金曜の5日間通うようになりました。何もかもやってしまうことが、逆に使える機能までをも衰えさせ、寝たきりにさせてしまっていたことに気付いた娘は、土曜、日曜の定休日には車椅子を押してさゆりさんと一緒に散歩や買い物に出かけるようになりました。離床時間の多くなったさゆりさんの顔には笑顔が戻り、活動量が増えたことで体力も回復してきました。さらに、家とデイサービスセンターとの連携でしっかり水分が摂れるようになり、発熱もなくなり、痰のからみも気にならなくなりました。娘も気持ちにゆとりを持ち、「する介護」と「見守る介護」をバランスよくこなしています。

1日の水分摂取量

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