介護レポート<26>

取材協力★市川歯科医院(福島県いわき市)

地域で支える食介護〜いわき食介護研究会〜

多職種協同による食介護研究会

 市川院長は訪問歯科診療の現場で、摂食・嚥下障害のお年寄りと接することが多くなるにつれて、「歯を治すのはあくまでも手段であり、目標は食べることではないか」と思うようになり、歯科医師、歯科衛生士の5名で勉強会を始め、1997年に「いわき食介護研究会」を立ち上げました。現在は、医師、看護師、言語聴覚士、管理栄養士、ケアマネジャーなど医療・福祉の専門職に加え、レストランのシェフ、デザイナー、教師など総勢300名余りが参加し、英知を出し合い、地域の中で「おいしく食べる」ことを支援するネットワークが広がっています。医療・介護の専門職も、職域を越えた知識の共有や連携があってこそ、生活者の望む「食介護」の実現が可能になることを実感しています。
 会では、市民フォーラムの開催、介護食コンテストなどの他、「おいしく食べる環境」を追求するために、脳を活性させる「五感の研修」にも力を入れています。メディカルアロマセラピー、音楽療法、食卓の照明、テーブルクロスやカーテンの配色、料理の盛り付け方など専門家を招いての研修も行います。
 最近では、乳幼児の味覚教育、子供の食生活の改善こそ、生活習慣病の予防であり、介護予防の原点であると考え、小中学生を対象に、地域で採れた野菜や果物などを使い「地産地消」を学びながらの料理教室を通して、味覚や噛むことの大切さを伝えています。ライフステージごとの「食育」の研究に取り組むことで、50年後、70年後の介護予防教育をも視野に入れて活動しています。

 

食介護展示室は情報ステーション

 「私は、おいしく食べられる口を取り戻すための口腔科医(笑)を目指しています。」という市川院長は、歯の治療をした患者さんの口がきちんと使えるか、食べること、飲み込むことに問題はないかまでを診断し、歯科の治療だけで解決できなければ、必要に応じて、かかりつけ医、ケアマネジャー、管理栄養士などと連携をとっています。さらに要請があれば診療道具を車に積んで、病院や施設、在宅へ訪問歯科診療に出向いています。
 医院の中に併設された「食介護展示室」には、口腔ケア用品のみならず、自助具、食器、介護用食品など食介護の助っ人になる様々な商品やパンフレットが所狭しと並んでいます。
  治療によって噛むことのできる歯を取り戻しても、飲み込む機能が弱っていたり、口の中の清掃がうまくできなかったり、食事を口に運ぶことが困難であれば、食事をおいしく食べられるとはいえません。一人ひとりの体の状態や嗜好や環境に応じて、ご本人にとってベストな選択ができるように、食べることに関するあらゆる情報を提供しているのです。
 ここには、地域の看護師やケアマネジャー、ヘルパーなども集まり、自分が担当している利用者さん、患者さんのQOL(生活の質)の向上のために、食介護の知識を得たり、新商品の情報を集めるなど情報交換をしています。「食介護展示室」は地域の食介護ステーションの役割も担っています。

いわき食介護研究会展示室  自助食器  介護用食品

※いわき食介護研究会展示室にて。
歯ブラシの選び方から歯の磨き方、使いやすい自助食器、各メーカーから出されている介護用食品の特徴などを説明。
QOL向上のために、その人の状態やライフスタイルに応じた情報を提供している。

 

おいしく食べることを支援する食介護おいしく食べることを支援する

 「食事」は、「人」を「良」くする「事」と書くように、人を元気にします。栄養や水分を補給するだけでなく、口から食べることで五感を使い、脳を刺激して、おいしさや楽しさを感じ、身体的にも精神的にも生きるパワーの源になります。
 「食介護」とは、たとえ障害を持ってしまっても、口からおいしく食べ続けること、再び口から食べられるように回復していただくことが目標です。そのためには、口から食べて飲み込むまでの一連の食動作を医学的に見極めて治療し、リハビリをする。また、食べやすい・飲み込みやすい食材の選択、調理法の工夫が必要であり、その人なりの食文化・食習慣を理解・把握した上で食環境を整えていくことが大切になります。

 

※おいしく食べることを支援する食介護は、
その人にかかわることのできる人たちの持つ
「知識」「技術」「気付き」「行動」など、
様々な要因が重なりあって実現します。

問題を正しく把握しよう

 食事調査の担当者の中には、「食事を食べていますか?」と質問する人がいるようですが、この聞き方では「食べています。」というあたりまえの答えが返ってくるだけで、食事の問題点を正確に聞き出すことにはなりません。例えば、「ご家族と同じ食事が食べられますか?」と質問することによって、食事をやわらかくしているとか、揚げ物は食べていないとか、むせるとか、そこから得られる情報は、摂食・嚥下障害をはじめ、全身疾患や食事環境の問題まで踏み込むことができるのです。まずは、その人の食事に関する問題点を正しく見極めることから「食介護」を始めましょう。
  もし、食欲が低下しているようであれば、「食べる意欲がない」「噛めない」「飲み込めない」などの原因を探ります。胃腸疾患なども考えられるので、食事の量が減ってきたようであれば、低栄養・脱水症状を起こす前に、かかりつけ医に相談し、原因をしっかり診てもらいましょう。

 

五感を刺激する環境作り●「食べる意欲がない」場合

 一つは、「食べ物であることがわからない」という認識障害が疑われます。食べ物であることを思い起こしてもらえるような環境づくり、食べるための一連の動作を補うような声かけや介助が必要になります。
 まずは、しっかり目覚めていることが大切です。キッチンから聞こえてくる音や料理のにおい、食欲がわくようなテーブルセッティング、大好物を用意するなど、五感を刺激する環境を作っていきましょう。
 また、不安や寂しさから食欲が低下する場合もあります。家族と一緒に食卓を囲む、一人暮らしの場合はデイサービスを利用するなどして仲間と一緒に食事をするなど、心安らぐ環境を整えてあげてください。

●「噛めない」場合歯や歯ぐき、入れ歯の問題

 歯や歯ぐき、入れ歯の問題が考えられるので、歯科医に診てもらいましょう。外出できない場合は、訪問歯科診療を利用しましょう。本人や家族だけでは口の中の清掃が十分にできない場合、定期的に歯科衛生士に口腔ケアをしてもらうとよいでしょう。
 家族と同じ食事でも、少しやわらかめに煮込んだり、隠し包丁を入れて噛みやすくするなどで対応できる場合もあります。食べやすい大きさや噛みやすさを考慮した食事づくりを心がけましょう。

●「飲み込めない」場合とろみをつけたり、ゼリー状にする

 唾液の分泌や、舌・のどの送り込む機能が低下していることが考えられます。リハビリ訓練により回復することもあるので、まずは診察を受けましょう。
 食べ物や飲み物にとろみをつけたり、ゼリー状にすることで、唾液量の不足を補ったり、のどの通りをスムーズにしたり、飲み込むタイミングを調整できる場合もあります。ただし、初めから強いとろみにしてしまうと機能を悪化させることがあるので、各人に合った適正なとろみから始める必要があります。

 

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