今年2月、91歳を迎えた泰子さん(要介護5)は、娘の光子さん夫婦と3人暮らし。同居時は老人性鬱病と診断されており、6年前にはパーキンソン病も発症。歯科医の在宅訪問診療が開始されたのは、欝のため外出もままならず入れ歯が合わなくなった頃です。入れ歯の調整がうまくいくと、食欲が増し体力も回復。本人の希望で洋服を新調し同窓会に出席したことがきっかけとなり、外出の機会も増えました。気力もついてきたのですが、その後、多発性脳梗塞を3回ほど起こし、一昨年の冬にはショートステイ中に嘔吐し、誤嚥性肺炎を発症して入院。「口から食べることは危険」と診断され、胃ろうを造設しての栄養補給に。入院中は口腔ケアを徹底し、退院と共に口腔リハビリを再開しました。
現在、目覚めのあまりよくない朝は、足りない栄養と服薬を胃ろうで補給。昼は光子さん手作りのバナナジュースを1杯飲み、意識のはっきりしてくる夕方に、家族となるべく同じ食事を食べやすいように工夫して食べています。胃ろうを使用しながらショートステイの利用も再開しています。
週1回訪問してくれる歯科衛生士は、声かけをしながら泰子さんの体にやさしく触れ、手・肩・首と軽い体操から開始。次に、あごの下から頬にかけて硬くなっている表情筋をストレッチしていきます。指を使って口の内側から頬の筋肉も伸ばし、舌にもしっかり刺激を与えます。食べる機能をアップさせるための口腔リハビリにより唾液腺も刺激され、サラサラとした免疫性のある唾液で口の中も潤ってきます。粘性の唾液は口腔清掃ブラシを使ってきれいになるまで取り除きます。あたりがやさしいので、口の中を傷つけることなく、咽頭をはじめ口のすみずみまでお掃除できます。介護者に時間がないときやご本人が疲れているときは、こうした口腔清掃ブラシで口の中の汚れをかき出すだけでも、誤嚥性肺炎を予防する効果が期待できます。
退院と共に言語聴覚士の在宅訪問制度が発足。昨年の5月より嚥下評価を受けながら入院前と同じように「もう一度口から食べさせたい」と、光子さんは家族だからこそできる試みをしてきました。リハビリを兼ね、口の動き、のどの動きを確認し、現状の機能に適した安全な食形態であるかどうかを実際の食事で評価してもらいます。退院から半年が経過しましたが、粒が残っていたり、まとまり感のないものは飲み込みが悪い状態です。
家庭では家族と同居していても、それぞれに生活があります。ここでは主介護者である光子さんを中心に、今ある環境の中で、泰子さんにとってベストな方法を考えることが第一です。「安全に口から食事を続けるにはどうしたらよいのか。」、1年ぶりに管理栄養士から食事のアドバイスを受けることになりました。
同じメニューでも、水分量や火加減、落し蓋や紙蓋をするだけでもやわらかさが違うこと。フードカッターなど便利な調理機器の使い方。食材と相性のよい「ゲル化(ゼリー化)剤」や「とろみ調整食品」などを上手に取り入れることで、飲み込みやすい食形態が作りやすくなること。このように調理加工したものを小分けにして、冷凍保存する方法なども学びました。
早速、泰子さんの口腔機能に合わせて調整した、やわらかいゼリー状のお粥と白いんげん豆のペーストで、言語聴覚士に評価してもらいました。粥ゼリーは、舌の動きや飲み込む機能の低下で、食塊形成しづらい部分の口の感覚を呼び覚ます役割をし、咀嚼する力を引き出し、口の中の残留もなく飲み込み良好。食塊が咀嚼を促し、嚥下するという一連の動きをも引き出すことで、今までよりも食事の時間が短くなりました。
基本となる主食を泰子さんの食べやすい食形態に調理する方法を学べたことで、他の食材にも応用すれば、安心して食べられるメニューのレパートリーが増やせそうだという光子さん。専門職のアドバイスを得て、日々の介護の中に上手に取り入れることで、本人も家族も楽になり安心できることを実感しているそうです。



入れ歯を調整したことで、泰子さんの元気を取り戻してくれた
歯科医の黒岩恭子先生(村田歯科医院)。
以来、月に1度は訪問してくれる。口腔ケアは毎日のこと。
その方の状態や環境に応じて、ご家族でも簡単にできるように、
様々なアイデアグッズを考案。なかには商品化されたものもある。
これらグッズのおかげもあって、泰子さんの口の中は清潔に保たれている。


歯科衛生士の小林知子先生(村田歯科医院)は、
毎週泰子さん宅を訪ねます。その日の体調に合わせて無理をせず、
パーキンソン病の影響でこわばっている泰子さんの顔面を、
しっかり、やさしくストレッチします。

茅ヶ崎徳州会総合病院では、
昨年の5月から訪問リハビリを開始。
泰子さんが退院してから
訪問をしている言語聴覚士の
伊嶋久美子先生は、
聴診器でのどの通りを確認しながら
食形態を評価してくれます。


泰子さんにお目にかかるのは2回目という
管理栄養士の増田邦子先生(特別養護老人ホームしゃんぐりら)。
いつもスプーンで介助している光子さんに「泰子さんは
口の機能が低下してきているので、
食べる時間が長くかかる場合は、
ノズルを使って食べていただくのも本人を疲れさせないための1つの方法」
とアドバイス。早速、水分補給用のゼリーで試してみます。
●温かい粥ゼリー
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1.ミキサーで粗くつぶしたお粥に、お湯で溶かした「ゲル化剤」を加え、フツフツ音が立つまでかき混ぜながら火にかける。
「ドロドロ」が「トロトロ」に変わり、粒は残ってもやわらかく、 ゼリー状にまとまり感が出てくる。
2.70℃ぐらいで固まってくるので、温かいお粥を食べることが
できる。
3.お皿に移してみると、茶碗に付着しないので、べたつきが
少なくまとまりがあり、のどの通りもよいことが確認できる。
4.食べていたお粥はスプーンから落ちにくく、口の中に残り、
ばらけやすいことが連想される。
5.作りなおしたお粥はスプーンからきれいに落ちるのでのどの
通りもよいことがわかる。
●白いんげん豆のペースト


白いんげんまめは、少量の煮汁と「とろみ調整食品」を加えて ハンドミキサーにかける。ミキサーを縦に振りながら使うことで、 狭い空間の中で、縦・横の力が加わり、よりなめらかに仕上が り、むせが軽減される。