「介護老人保健施設」の役割は、介護を必要とする高齢者が、在宅での生活を維持できるように自立支援することです。藤尾祐子さん(介護支援専門員・看護師)は5年前、居宅介護支援事業所のケアマネジャーから介護老人保健施設の看介護長になり、この役割を果たせていない当時の施設の状況を目の当たりにし、本人の自立を促し家族の負担を減らさなければ、介護老人保健施設としての本来の役割である「在宅復帰」は難しいのではないかと考え、行動を開始しました。
まず、取りかかったのは「下剤の撲滅」です。当時は3日間便が出ないと、個々の排便パターンや体調に関係なく下剤が投与され、入所者の2/3が服用していました。下剤が効きすぎて下痢になる人、突然のもよおしで下着を汚してしまう人、不穏な行動を起こす認知症の人…。「下剤は本当に必要なのか?」「排泄の負担がなくなれば、在宅復帰は可能なのでは?」という疑問がわいてきました。 1日の食事は食物繊維が15g入るように計算されていますが、排便の状態に応じて、200mlのお茶に7gの食物繊維を入れたファイバードリンクを作り、人によっては朝だけの人、朝も昼も夜も必要とする人など個別に対応。排便のリズムも観察していくことで、1年後、全員の排便パターンがつかめ、下剤に頼る必要はなくなりました。高齢でも排便リズムは確認でき、体調を崩したときに座薬を使う程度で、常時便秘という人はいなくなりました。
一人ひとりの食事箋。食形態、補助食品、スプーンの大きさなどが記入され、お盆の上にセットされています。 |
![]() 最初は介助が必要でも、体調がよくなると どんどん自立ていきます。 |
![]() 可能な限り常食にし、「噛む」ことを促す介助をしています。 |
|
![]() 常食では危険をともなう場合、食形態を変えて対応。ミキサー食などカロリーが少なくなってしまうときは、栄養補助食品なども加えます。 |
体力をアップし活動するためには日々のリハビリが欠かせません。しかし、リハビリの専門家による訓練は多くても週に3日しか受けられないのが現状です。そこで看介護スタッフが連携し、生活の中でリハビリにつながることは常に行えるように組み立てられています。例えば、在宅に戻った場合、室内を車椅子で移動するのは困難であると判断し、歩行器やシルバーカーを早い段階で導入した歩行訓練を日常生活の中で積極的に行っています。歩行が安定してくれば、手すりや杖を使って室内を移動することも可能になります。
平日の午前中はレクリエーションを兼ねた体操の時間、午後はクラブ活動です。クラブ活動は100名以上のボランティアに支えられています。教える人も教わる人も充実した時間を過ごしています。日曜日はドライブに行ったり、食事に出かけたり、家族が一緒に同行することもあるリフレッシュの日です。
最近は胃ろうを造設した人が入所される割合も多く、「食べ物であることがわからない」「食べるという行為がわからない」という認知症の人が、重度の嚥下障害の人よりも多いのです。胃ろうは介助を楽にするように思われるかもしれませんが、食事介助をして口から食べていただいたほうが、廃用症候群(使わない機能が衰えてしまう)の予防になり、心身の状態が安定することで認知症による異常行動の発現予防にもなるのです。
食事を拒否する人に対しては、その理由を探り対応していきます。大抵の場合は「好きなものを用意する」「好きなものを一緒に食べに行く」ことで解決し、その後は拒否することなく普通に食べられるようになっています。
高齢になれば何かしらの持病があります。認知症があってもなくても、すべては体調管理が基本です。「水分」「食事」「排便」が整い体力がつくからこそ、リハビリができ活動量が上がります。
水分摂取量、食事量、排尿・排便の回数、血圧、脈拍、体温は一目でわかるように、日々個別の表に記録しています。そこには、リハビリテーション、レクリエーションといった活動の欄もあります。体重も月に一度記録し、過去のデータと対比することで栄養状態
を確認する目安になり、採血検査の必要性があるか否かの判断もできています。
こうしたデータを示しながら家族に説明することで、本人の体調、生活状況を理解していただきやすくなりました。介護負担が軽減されると、外泊から始まり、徐々に家で過ごす時間が多くなり「在宅復帰」になります。緊急時はいつでも施設を利用できるように待機しているので、家族も安心して在宅介護を継続することができています。
なかには、基礎疾患の悪化で入院される方もいますが、ほとんどの方は自立に向け回復します。体だけを診てすぐに薬が投与される現在の医療に比べ、人が人にかかわることで個々の精神的・身体的状態を把握し、生活の中で心を動かし体が動くようにケアできることは、介護に関わるスタッフにとっての醍醐味であり、何よりもやりがいにつながっています。